退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『犬神家の一族』(1976) / 日本映画史に残る角川映画第1作

YouTube「角川シネマコレクション」チャンネルで、映画『犬神家の一族』(1976年、監督:市川崑)を鑑賞する。原作は横溝正史作による同名の長編推理小説。主演は石坂浩二。70年代から80年代にかけて一時代を築いた角川春樹事務所の第1回映像作品。角川春樹はすごい!

信州で製薬業を営む財閥犬神家の当主・佐兵衛翁(三國連太郎)が亡くなり、巨額の遺産相続をめぐり猟奇的な殺人事件が起こる……。そんななか東京から私立探偵・金田一耕助石坂浩二)がやってくる。果たして連続殺人事件を防ぐことができるか……。


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何度も見ている映画だが、登場人物が多く人間関係も複雑なうえに、2時間30分近くある長尺である。多くの観客は事件を一度で理解するのは難しい。その意味では謎解きよりも映像のインパクトで勝負しているのは娯楽映画としては正解である。しかし推理の過程をなおざりにしているためミステリー映画としては不満が残る。

この映画の肝は市川崑監督によるスタイリッシュな映像に尽きる。佐清のマスクや、湖で発見される逆さの遺体(DVDのジャケット参照)など見どころは多い。随所に見られるカット割の妙や、エヴァンゲリオンでオマージュされたアバン後の黒地に白地のタイポグラフィはいまなお斬新である。なお劇中、なぜ遺体が逆さなのの説明はない。前述のように、こうしたオカルト要素を削ぎ落としたのは奏功している。

ラスト近くで、珠世(島田陽子)の生い立ちが明かされ、佐兵衛翁と血縁関係があることがわかる。最初から遺言状に書いておけば、悲劇は防げたのだろうが、みんなが翁の手のひらで踊らされていたということか。

結局、金田一耕助は奮闘虚しく連続殺人事件を防げずに、真犯人の標的はすべて殺害されてしまう。一応、謎解きをして犯人を突き止めるも犯人には自害されている。本当に名探偵だったのだろうか。なんとなく明るい雰囲気で終わっているのは、島田陽子あおい輝彦の美男美女カップルに希望を見出したということか。

ストーリーはともかく出演者はすごい。石坂浩二金田一耕助役ははまっているし、島田陽子はとても美しい。加藤武小沢栄太郎など日本映画の黄金期を支えてきたベテランたちの演技は老獪だ。極めつけは犬神家の三姉妹が高峰三枝子草笛光子、三条美紀という重厚な布陣もなかなかである。この映画は出演者の存在に大きく負っている。

余談だが「犬神家の一族」は何度も映像化されており、2006年には本作と同じ市川崑石坂浩二のコンビでリメイクされている。リメイクは名作の評判が高い本作と比べくもない駄作とされている。何がちがったのだろう。市川崑が老いたのか、役者の質が落ちたのか……。両方を見比べてみるのも一興だろう。