退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【読書感想】松本清張『徳川家康―江戸幕府をひらく』(講談社 火の鳥伝記文庫、1982年)

社会派推理小説作家・松本清張が、子ども向けに書いた徳川家康の伝記。ずいぶん前に知人に紹介してもらい、いつか手に取ってみようと思っていた。

今年の大河ドラマの主人公が徳川家康だったので数年越しで読んでみた。松本清張がこんな仕事もしてたのかと驚いたが、子ども向けながら清張らしい語り口が興味深い。

子ども向けということで、人名や地名といった固有名詞にていねいにふりがなが振ってあるのは都合がよい。その反面、使って良い漢字が制限されているのか、漢字で書けばいいところが、ひらがなで開いて書かれているので読みにくいところもある。

本来、徳川家康の生涯を一冊で書き切るのは無理があるのだろうが、十分に調査した上できっちり書かれているのだろう、少しも物足りないと感じない。大人が読んでも入門として楽しめる。気になるところは自分で調べながら読み進めるのがよいだろう。

この本では、「関ヶ原の戦い」あたりまでで、ほぼ半分の紙幅が割かれてる。一方、今年の大河ドラマ「どうする家康」では、すでに10月も終わろうというのに、関ヶ原の戦いまで進んでいない。どこに重点を置くのかは作家次第だろうが、大河ドラマは前半に時間をかけすぎたように思う。

家康の偉い点は統治の仕組みをつくったことだと、本書では説く。その点が信長や秀吉が属人的だったのと対照的だという。このあたりが家康像の本質に思えるが、いまの調子だと大河ドラマではほとんど描かれないで終わるのだろう。