退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『大いなる驀進』(1960) / 国鉄全面協力の下、特急さくらを舞台にした人間ドラマ

鉄道の日」にちなんでYouTubeの「東映シアターオンライン」で公開されていた映画『大いなる驀進』(1960年、監督:関川秀雄)を鑑賞。主演は中村賀津雄。

東京から長崎に向かう特急さくら号。発車まぎわに慌しく乗り込んだのは矢島(中村嘉葎雄)の恋人・君枝(佐久間良子)だった。ふたりは結婚を約束していたが、矢島は列車給仕の給料では生計が立たないと結婚を躊躇しており、今回の乗車を最後に国鉄を退職しようとしていた。この二人の他にも、スリの名人、駆け落ちカップル、政治家と秘書、自殺を図る炭鉱主など多種多様な人間模様を織り交ぜながら、さくら号は驀進する……。

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国鉄開通88周年を記念して製作された作品。国鉄の全面協力を得て、当時の鉄道の様子が鮮明な映像で残っているのは資料映像として貴重。同時に新藤兼人の脚本による人間ドラマも短いながもよくまとまっている。

クライマックスは、台風のため土砂崩れで線路が塞がり、列車は急停車するが、乗務員が総出で雨風に打たれながら土砂を取り除いていく場面。食堂車のスタッフや、さらに乗客であるヒロイン・君枝までも作業に加わるという展開は熱い。当時、これが現実的だったのかわからないが、国鉄の宣伝映画ということを措いても、なかなか唸らせるシーンである。

出演者では、三國連太郎が主人公の上司でもある特急さくら号の専務車掌を演じていて貫禄を見せている。また個人的には、血清を大阪から長崎まで運ぶために乗車する看護婦役の久保菜穂子がよかった。背中にイレズミ背負ってそうではあるが……。

なお、本作の姉妹映画に同年同監督で撮られた『大いなる旅路』がある。来年の「鉄道の日」にはこちらも見てみたい。