退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『怪談』(1965) / 小泉八雲の原作を映像化したオムニバス作品

ユーロスペースの《生誕100年 小林正樹映画祭 反骨の美学》で、映画『怪談』(1965年、監督:小林正樹)を鑑賞。小泉八雲の原作から「黒髪」「雪女」「耳無芳一の話」「茶碗の中」の4つの怪談話を映像化したオムニバス作品。

怪談といっても新東宝のようなどぎつい演出ではなく、幽玄、妖美な伝承を壮大なスケールで洗練されたアート・フィルムとして映像化。劇伴がほとんどない映像は演劇的と言ってもよいだろう。映画館で一度は見ておくべき作品であろう。

各編とも錚々たる俳優が演じていて緩みがない。どれもよく知られている怪談話ではあるが、このなかでは「耳無芳一の話」が印象に残った。耳無芳一(中村賀津雄)の全身に般若心経を書きつける場面はインパクトがある。これは海外でもさぞウケるだろう思ったら、当時カンヌ国際映画祭に出品され審査員特別賞を受賞している。

しかし高いアート性が災いしたのか興行的には振るわず、製作会社の文芸プロダクションにんじんくらぶは倒産に追い込まれている。商業映画は難しい。


Kwaidan: As Quatro Faces do Medo (1965)

今回上映されたのはカンヌ国際映画祭で公開された上映時間161分のインターナショナル・バージョンだった。国内では183分の完全版が上映されたが、原版のフィルムが紛失したためインターナショナル・バージョンが広く上映されてきた。その後、原版が発見され修復されDVDも発売されているという。

チケットを買う時、今回の上映はインターナショナル・バージョンだがいいかと訊かれた。どうせなら完全版を見たかったが仕方ない。せっかく映画館まで来ているのだから「お、おう」と答えるしかない。いずれ完全版を観る日がくるだろうか。