楽しみにしていた映画『沈黙の艦隊』(2023年、監督:吉野耕平)を見てきた。原作はかわぐちかいじによる同名漫画、主演・プロデューサーは大沢たかお。原作を読み直して予習は万全。
原作漫画の連載が始まったのは1988年であり、ソ連時代の東西冷戦が背景になっている。後に触れるが、映画の時代背景がぼんやりしているなと感じた。ほかにも原作は改変されているが、今の時代に映画化するにはこうなるのだろう。
かわぐちかいじ作品の映画と言えば、『空母いぶき』(2019)という“前科”がある。当時、勇んで映画館に出かけたが、「カネ返せ」のレベルだったのはいまでは懐かしい思い出である。
それに比べれば、本作は格段に優れた映画に仕上がっている。戦闘シーンも、日本映画にしてはという枕詞がつくものの、かなり頑張っていて、大スクリーンの鑑賞に十分耐えうるレベル。足を運んだ価値はあった。また自衛隊の協力を得て、ホンモノの潜水艦の映像が使われているのは貴重である。
それでも気になった点がいくつかあるので、以下に列挙する。
第1は、本作は物語の導入部にすぎないこと。原作が全32巻にわたる長編であることを考えると仕方ないのだが、原作を知らずに映画を見た人は、1本の映画として満足できるだろうかという疑問はある。製作側は、当然続編を考えているのだろうが、「続編ありき」の映画であることは留意してほしい。タイトルに「1」とか続編を匂わす表記がないのは、「機動戦士ガンダム」と同じだが、実際「これでおわりなの」という観客がいたので、不親切ではないかとも思う。
第2は、時代背景がぼんやりしていること。原作は東西冷戦時代に連載開始しているが、本作は潜水艦に女性自衛官が搭乗していることや、やまと艦内の装備などから現代だろうなということは伝わってくる。しかし、原作を改変するならば、ウクライナ戦争が起こり、台湾有事の懸念されるなど国際情勢での緊迫感が伝えてほしかった。
第3は、海江田艦長(大沢たかお)が何を目指しているのか伝わってこないこと。本作では、物語の序章程度しかカバーしてないので仕方ないが、原作を読んでない人は「こいつ何を考えてるんだろう」と思うだろう。原作では、ざっくり言うと海江田は「国連を起点に平和な世界政府を模索する」ことになるが、本作だけでは伝わらない。そもそも現代において、国連の機能不全は常態化しており、国連をあてにした原作から大きく改変することが迫られるのではないか。続編でどのように処理されるのか気になるところである。
いろいろ書いたが、好きな原作漫画がまさかの実写映画化されたのはとてもうれしい。正直見る前は不安もあったが、この出来栄えならば続編にも期待したい。
やや余談だが、豪華キャストのなかでなかですごいと思ったのは防衛大臣役の夏川結衣。若いことからエラい変わったなと驚いた。女性ってすごいな、役者ってすごいなと思ったものです。