DVDで映画『遥かなる走路』(1980年、監督:佐藤純彌)を鑑賞。“トヨタ自動車”創業の道のりを壮大なスケールで描く。原作は木本正次による伝記小説「夜明けへの挑戦」、主演は市川染五郎、現在の松本白鸚 (2代目)である。
冒頭、自動織機の大発明家・豊田佐吉(田村高廣)が父親からぶん殴られるシーンから始まる。さすが新藤兼人の脚本だけあって掴みはよくできている。しかし映画全体としてはトヨタ自動車の創業者・豊田喜一郎(市川染五郎)の伝記映画と言っても差し支えないだろう。
創業者の人間ドラマというには、少年期から青年期、そして大学時代を東京で過ごした時期のエピソードが希薄で面白くない。彼の青春はどこに行ったのかだろうか。
まあ、めっちゃ豪華な社史編纂プロジェクトの一環だったのかもと思うと得心がいく。天下のトヨタ自動車がどのくらい映画製作に関与したかは分からないが、ある程度は御用映画だったのだろう。映画的な悦楽とは無縁の映画である。
それでも敢えて見どころをさがすとすれば、エンジンのシリンダを鋳造するシーンである。工場内に設えた大掛かりなセットで何度もトライ・アンド・エラーを繰り返しながら困難を克服していくあたりは、工学部出身者としては萌える。
また監督も社史映画だけではつまらないと思ったのだろうか、三橋達也が自動車でアメリカ大陸横断するシーンでの大自然のスペクタクルはなかなかいい。
ただ戦時中に軍のためにトラックを製造して大儲けして、トヨタ自動車の戦後の発展の基礎をつくったという、「闇の歴史」には触れられていない。歴史ある日本の大企業は多かれ少なかれ戦時中の闇を抱えているとはいえ、当時の戦争協力をスルーするのはいただけない。戦争と企業との関係をきちんと描いてこその社史映画ではないだろうか。
それにしても、なぜこの時期に松竹が社史映画を撮ろうと思ったのだろうか。それがいちばん気になるところである。