退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『日本の悲劇』(1953) / 戦争未亡人を演じた望月優子の出世作

DVDで映画『日本の悲劇』(1953年、監督:木下惠介)を鑑賞。主演は望月優子。松竹映画。白黒映画。

戦争未亡人・春子(望月優子)は、二人の幼い子供をかかえ生活のため時には体を売ることすらあったが、子どもたちの成長を生きがいにして戦後の混乱期を必死で生きぬいてきた。やがてふたりは立派に成長し、長女の歌子(桂木洋子)は英語の私塾に通い、長男の清一(田浦正巳)は医師を目指した勉学には励んでいた。しかし、ふたりは母の過去の仕事を知ると次第に母に反発するようになる。やがて歌子は、妻帯者である私塾の英語教師(上原謙)と不倫関係となり駆け落ちしてしまい、清一は資産家の医師の家に養子に入るため縁を切ってくれ言い出す。そんな現実に絶望した春子は……。

なんとも辛気臭い映画だが、ニュース映像を巧みに挿入して過去と現在を交錯させながらエピソードを重ねていくあたりは、さすが木下監督だなと思わせる。劇伴を廃した無音の演出が独特の世界観を構築している。また救いようのないラストは、松竹ヌーヴェルヴァーグの嚆矢という解釈もできる。出演者のなかでは望月優子がすばらしい。社会派女優としての出世作となったのもうなずける。

それにしても、ふたりの子どもの倫理観はどうなっているのか。「親孝行」という文字は念頭から消え去っているのか。当時そうした風潮が蔓延していた時代なのかなと思うが確認しようものない。

この映画は世代間格差を描いている。公開年の昭和28年は日本経済が登り坂に差し掛かった時期である。子ども世代が親世代より豊かになる時期の世代間格差である。一方、いまの日本は凋落していくばかり。本作とは逆に子ども世代が親世代より貧しくなることもめずらしくない。こうした時代背景における世代間格差を描いた日本映画が作られてもいいだろう。