退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【読書感想】山内マリコ『あのこは貴族』(2016年、集英社)

話の流れで知人に勧められて読んでみた。

東京生まれで裕福な家庭で育った華子。30歳を前に結婚に焦った華子は、ハンサムな弁護士・幸一郎と知り合う。幸一郎は、華子と同様に裕福な家庭で育った「上流国民」で、ふたりは婚約する。一方、地方出身の美紀は、ガリ勉の末に慶応大学に進学するも、家庭の経済的な理由により中退していた。都会にしがみつく美紀は、ラウンジで働いていたときに幸一郎と出会う。幸一郎も同じ慶大に通っていたことがわかる。美紀の幸一郎の都合のよい女となり、幸一郎の婚約後も男女の関係が続いていた。やがて華子と美紀は共通の友人を通じて出会い、お互いの人生を見直していく……。

あらすじは、以上のとおり。日本の格差社会を背景にした小説である。上流国民がよく利用しそうな、スポットやレストランなどの固有名詞がリアリティを感じさせる。とは言っても、このようなハイソな人たちの状況はよく知らないので、実情に近いのかはさっぱりわからない。

一方、地方出身である美紀の気持ちはまだわかるような気がする。内部生との格差はわかる。慶応ではなく、早稲田や明治、法政にしとけよと思ったのは私だけはあるまい。また私も、さすがに親が「女に学問はいらん!」というほどの家庭の出身ではないが、いまでも田舎にこうした親はいそうな気はする。まさに「親ガチャ」ということだろう

こういう指摘も野暮かもしれないが、家庭からの経済支援がなくなっても中退することはないのではないかと思ってしまった。いろいろな支援が受けられるのでないか。せっかく慶大なのにもったいない。

個人的には、幸一郎が弁護士から政治家に転進する話をもっと深掘りしてほしかった。どこか地方の選挙区から出馬するのだが、東京生まれの幸一郎が地方の代表とか「荘園じゃないんだから」と思ってしまった。しかし、こうした事例は現実に散見される。岸田首相も選挙区は広島県にあるらしいが、開成から早大という東京育ちだし、安倍元首相も山口県に選挙区があるが、成蹊出身の東京育ちだし、もうなんだなぁと思う。

主人公であるふたりの女性がそれぞれの人生を自立して生きていくという、エンディングは安易にも思えるが、読後感は心地よい。読みやすいし、地方出身者で大学進学時に上京してきた人には刺さるのではないか。

さて映像化決定と思いながら読んでいたが、すでに映画化されていたことがわかった。華子役が門脇麦、美紀役が水原希子という配役。第一感、水原希子はちがうんじゃないかと思ったが、映画を見ないで即断するのは早計に過ぎるだろう。機会があれば映画も見てみたい。