退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『未完の対局』(1982) / 日中合作映画の難しさがわかる映画

新文芸坐の《「映画監督 佐藤純彌 映画よ憤怒の河を渉れ」刊行記念 プログラムピクチャーから大作映画まで 映画の職人〈アルチザン〉 佐藤純彌》という企画で映画『未完の対局』(1982年)を鑑賞する。戦後初の日中合作映画。囲碁ファンとしても観ておきたかった映画。初見。

1920年代。囲碁棋士の松波(三國連太郎)は中国旅行中に現地の棋士・易山(孫道臨)と出会い、易山の息子・阿明(劉新)に才能を見出し、日本に連れ帰り弟子として育てたいと申し出る。やがて阿明は日本に渡り松波門下として修行に励む。やがて成人した阿明(沈冠初)は松波の娘・巴(紺野美沙子)と愛し合うようになる。しかし日中戦争が激化するに伴い、阿明は祖国のために戦うため帰国しようとするが……。

未完の対局 [VHS]

日中の囲碁棋士の交流、そしてその子どもたちの悲恋を日中戦争の歴史に重ねて描く壮大な人間ドラマ。戦争ために運命を狂わされた人たちの運命がよく描けている。

三國連太郎と孫道臨の世代は演技派同士の共演で見応えがある。戦後和解した二人が万里の長城で、戦前に打ち掛けた対局を脳内囲碁で続きを打つラストはなかなかいい。

また子ども世代の紺野美沙子と沈冠初にカップルは芝居は薄いが好意的には初々しいとも言える。戦死した阿明の兄弟弟子の故郷で雪のなかで二人が抱き合うシーンの紺野は美しい。まあ個人的に紺野美沙子のファンであることを差し引いても見どころである。

しかし映画としては時系列が非常にわかりずらく観ていて疲れるし、ストップモーションを多用した演出もいま思えば陳腐な印象を受ける。

それでも戦後初の日中合作映画という記念碑的映画として一度は観ておくといいだろう。旧日本軍は鬼のように描かれていて、その描写はかなりひどいが、中国側の視点からはそう見えるのも仕方ないのかもしれない。その点を含めて本作には歴史的な意義があるように思える。