筆者は、日活ロマンポルノの名作『花と蛇』『生贄夫人』などで谷ナオミを縛り、その他にも数々の日活SM作品で縛りを演出した伝説の縄師(ロープマン)である。
筑摩書房 縛師 ─日活ロマンポルノ SMドラマの現場 / 浦戸 宏 著
谷ナオミの緊縛姿の表紙を見たとき、「え、これは電車で読むのはちょっと……」と思ってしまった。本編のなかにも日活ロマンポルノのスチルがふんだんに載っているので読むにも気を使った。なお、出版社は固いイメージのある筑摩書房であり、いたって真面目な回顧録である。
まずSM映画の撮影現場の生々しい裏話は貴重である。縛りの美学について小沼勝監督と意見が衝突し、それを谷ナオミが嗜めるあたりは圧巻である。そのほかにも団鬼六、濡木痴夢男、美濃村晃らとの交流の記述も面白く読んだ。本で残せたのは僥倖というべきだろう。
映画関連以外の筆者の経歴も面白い。児童書の編集者から初めて、次第にSM雑誌の編集者となり、やがて紆余曲折を経て「縄師」になるという異色のキャリア。さらに東京五輪のためにわいせつ雑誌の取締りが厳しくなるなど、社会の流れを重ねてあるので、雑に言えば風俗史としても面白く読める。
あとがきによれば、筆者はこの本に《銀幕浪漫――日活SMドラマの現場》というタイトルを考えていたそうだ。日活撮影所で映画づくりのスタッフに参加したひとりとして、裏方たちのプロフェッショナルへの仕事ぶりへの敬意からとのこと。なかなかいいタイトルである。まあ欲を言えば、当時の日活調布撮影所の様子がうかがえる写真があるとさらによかったかもしれない。
また、個人的に好みだった麻吹淳子がこつ然と姿を消した経緯についてなにか情報がないかと読み進めていたが、本当に突然撮影所に来なくなったらしい。これといったこともなく残念だった。
やや余談になるが、この本は不思議なことにAmazonに登録されていない。前述のようにこの本は筑摩書房の真面目な本だが、やはり表紙が強烈すぎたのか。それとも他にトラブルがあったのだろうか。気になるところである。