退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【読書感想】青木理『安倍三代』(朝日文庫、2019年)

安倍晋三元首相の暗殺を契機に積ん読だった本を引っ張り出してみた。

タイトルどおり、安倍晋三元首相の父方の祖父・寛、父・晋太郎、そして晋三本人の三代の軌跡を追ったルポルタージュである。丹念に集めた証言を元に構成されており、読み応えがあった。

私が読んだのは文庫版だったが、単行本が上梓されたのはちょうど例の安保法制が話題になっている時期だったのだろう、戦争体験者の証言が生々しい。さすがに戦争経験者で戦争を望む者はひとりもいない。

とくに面白いのは、反戦の政治家として軍部と闘った父方の祖父・寛の姿である。熱い想いをもって政治家を志、地盤もない選挙区で地歩を固めていき、戦時下の選挙戦を戦う様子は興味深い。

一方、三代目・安倍晋三の空虚さは恐ろしい。たいして政治的野心もなく、ぼんやりと政治家の道に入り混んでくる。たいしてやりたいこともなさそうなのに、安保法制を推進するようなタカ派に如何にしてなったのかは興味のあるところだが、本書ではあえて言及されていない。

この本を読んだ多く人が感じることは、「世襲政治家はダメ!」ということだろう。ぼんやりした晋三のような人が首相にもなってしまうのも、ジバン(地盤)、カンバン(看板)、カバン(鞄)」の3つのバンが揃っていた世襲政治家だったからだ。政治家になってはいけない人物だった。

そもそも、東京生まれ、東京育ちの安倍晋三の選挙区が山口県にあるというのがおかしい。これを「荘園」に例えていた人がいたが、言い得て妙である。

最近、岸田文雄首相が息子を首相秘書官に起用して炎上していた。これも世襲政治家への布石だろうか。いい加減、世襲政治家が出てこないようなルール作りが必要な時期に来ている。