新文芸坐の《没後25年 異才・勝新太郎 型破りな表現者》という企画で、映画『顔役』(1971)を鑑賞。製作、監督、主演は勝新太郎、脚本は勝と菊島隆三の共同脚本という、まさに勝新の映画。勝プロダクション製作。
大阪府警の暴力団担当刑事・立花(勝新太郎)は、捜査のためなら、暴力団員とも親しく付きあうアウトローだ。信用金庫をゆする大淀組を捜査する立花に、上役から捜査中止の命令が下るが……。
最近、NHK「アナザーストーリー」という番組で「天才激突!黒澤明VS勝新太郎」とエピソードを見た。黒澤明監督の新作映画『影武者』のロケ中に主役の勝新太郎が突然、降板するとう映画ファンにはよく知られた事件である。天才激突というていで番組が構成されていたが、やや物足りなかった。
この番組にあった天才二人の確執を見て、「だったら勝新が好きに撮ってみろよ!」と思った人も多いかもしれないが、実際に制作してみたらこうなりましたというのが本作。ストーリーはともかく、クローズアップの短いショットを多用した独特の画作りがすごい。映画文法を無視した、唯一無二の作品になっている。この映像を大きなスクリーンでみると一層印象的だ。
山崎努と太地喜和子は勝新の目に叶ったのことだろうが助演しているが出番は短い。あくまでも勝による、勝のための映画である。ほかの出演者では、勝とバディを組む刑事役に寅さんでおなじみの前田吟が抜擢されていて、ふたりの組み合わせがちょっといい。
アウトロー刑事の映画ということでは、和製ダーティー・ハリーのようであるが、ガンアクションがないことや、舞台が大阪ということで泥臭い映画になっている。最後に悪役を車ごと生き埋めにするシーンはインパクトはあるがヤリ過ぎだろう。
タイトルの「顔役」というのは、暴力団を仲裁する若山富三郎のことだったのだろうか。勝新太郎の実兄であるがすごい貫禄だった。
勝新の没後25年でプログラムを組むなら他に作品があるだろうと思うが、《没後25年 異才・勝新太郎 型破りな表現者》というテーマだと本作が選ばれるのは必然か。ちなみに併映は、勝の監督第2作『新座頭市物語 折れた杖』(1972年)だった。こちらも勝ワールド全開。勝新太郎監督作品の2本立てはちょっと疲れた。