退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『ユダヤ人の私』(2021) / ホロコースト生存者による最後の警鐘

少し前に岩波ホールで映画『ユダヤ人の私』(2021年)を見る。終戦から74年間 悪夢を語り続けたホロコースト生存者による最後の警鐘。オーストリア映画。白黒映画。

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ユダヤ人のマルコ・ファインゴルト(1913-2019)は1939年に逮捕され、アウシュヴィッツを含む4つの強制収容所に収容される。1945年まで4つの強制収容所に収容される。終戦後はユダヤ人難民の人道支援と公演活動に取り組む。

本作はマルコの数奇な人生を通じ、反ユダヤ主義がいかに広まりホロコーストの悲劇につながったのかを描く。


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マルコの語りを中心に、その合間にアーカイブ映像や反ユダヤのテキストが挿入されるというシンプルな構成。彫りの深いマルコの顔立ちに教科書にあるようなライティングによるモノクロ映像は映える。こうしたモノクロ映像は映画館の暗い環境で見る価値がある。

マルコが逮捕される前の青春期が、その後の悲惨な運命を考えると一層印象的だった。女性目当てにダンスに熱中したり、ビジネスに成功してイタリア旅行するあたりは眩しいぐらいに輝いていた。

また戦後、かつて住んでいたウィーンへの帰還は認められず、かろうじてザルツブルクに定住するあたりは政治的な事情はよくわからないが、戦後も行政によるユダヤ人差別があったのは悲しい。

本作はマルコの人生を振り返り、反ユダヤ主義を捉えるという試みだが、考えてみれば当時は何百人もの”マルコ”が犠牲になり、人生をまっとうできなかった。多くの日本人にとって、なかなかピンとこないテーマであるが、「人間て何だだろうな」とあらためて考えさせられた。

ちなみにこの映画は、ゲッベルスの秘書の証言を記録した『ゲッベルスと私』の【ホロコースト証言シリーズ】の第2弾作品となる。こちらも見たかったのだが、日曜日だけの上映だったので断念しなければならなかった。残念。


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余談だが、先日岩波ホールの閉館のニュースを聞いた。今回久しぶりに来館したが、きれいに改装されて見違えるようになっていたのに、まさかの閉館とは驚いた。これもコストパフォーマンスを重視する社会のの流れかもしれないが惜しいことだ。