退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『雁』(1966) / 森鴎外の小説の映画化。池広一夫・若尾文子版

DVDで映画『雁』(1966年、監督:池広一夫)を鑑賞。原作は森鴎外の同名小説。大映映画。白黒映画。

貧しさのため高利貸(小沢栄太郎)に妾として囲われたお玉(若尾文子)は、家の前を通る医学生・岡田(山本学)に密かな恋心を抱くようになるが、岡田の洋行が決まるが……。

この原作は豊田四郎監督により、1953年で高峰秀子主演で同じく大映で映画化されている。若尾文子はさすがに美しい。高峰秀子若尾文子をどちらを妾にしたいと訊かれれば、まちがいなく「若尾文子でお願いします」と答えるだろう。まあ若尾の魅力を引き出しているだけでもこの映画は成功といえる。

原作は身分違いの恋を描いた鴎外らしい小説だが、とくに面白いというものではない。そうした陳腐な話を、テンポよくまとめているのは池広一夫の手柄だろう。ただ時代を感じさせるのは、池野成の仰々しい劇伴である。池野はのちに『白い巨塔』の音楽も担当しているが、この時代の日本映画に慣れていないと驚くかもしれない。

おっさんになってあらためてこの映画で感じるのは、高利貸の気持ちである。学生たちに蔑まれながらも小金を貯めて金貸しを始めた苦労人。コンプレックスは大変なものだろうが、若尾文子を妾として囲うほどの羽振りのよさで、経済的には人生の成功者といえる。

この高利貸しは、ラストでお玉と対立して何を思うのだろうか。なかなか興味深いものだがある。そんなことを思いながら見終わった。