新文芸坐の《没後10年 高峰秀子が愛した12本の映画 ~名女優自ら選んだ、名匠たちとの仕事~》という企画で、映画『雁』(1953年、監督:豊田四郎)を鑑賞。原作は森鴎外の同名小説。大映映画。
貧しさのため高利貸(東野英治郎)に妾として囲われたお玉(高峰秀子)は、家の前を通る医学生・岡田(芥川比呂志)に密かな恋心を抱くようになるが、岡田の洋行が決まるが……。
主演・高峰秀子の陰影のあるまなざしは美しくも知的にも思えるが、高利貸の妾という役柄にはやや合っておらず、物語の世界観とはどこかちがうように思える。あまりにも気高すぎるためだろうか。
また後に水戸黄門を演じた東野英治郎の妻を浦辺粂子が演じていて目立っている。本筋とは関係ないのだが、嫉妬に狂う本妻と高利貸との掛け合いがちょっと面白い。
この作品の見どころは美術。おそらく初期の木村威夫の仕事だろうか。日本映画史に残るだろう無縁坂のセット見事である。
さてこの森鴎外の『雁』は、1966年にも同じ大映で池広一夫監督により映像化されていて、このときは若尾文子がお玉を演じている。どちらを妾にほしいかと訊かれればやはり若尾だろうか。個人的な趣味です。
余談だが高峰秀子と若尾文子と言えば、のちに『華岡青洲の妻』(1967年、監督:増村保造)で嫁姑役で共演している。チラシによれば、今回の「高峰秀子が愛した12本の映画」は実は13本で、この『華岡青洲の妻』もリストされていたのだが、諸事情により上映されなかったとある。高峰秀子特集で見たかった作品だったが残念だった。