コロナ禍のなか映画監督の大林宣彦さんの訃報が流れた。82歳。闘病しながら映画づくりを続けていたと伝え聞いていたが、遺作を完成させて公開を控えていてが、このコロナ禍のため延期されたという。時勢に鑑み印象深い。
大林監督は1938年生まれ。五社協定で括られる大手映画会社の出身ではなく、大学在学中に制作した自主映画が認められ、CM制作を手がけて映画監督としての地歩を固めた。自主映画やCM出身の監督の先駆者だった。
監督作品としては、『転校生』『時をかける少女』『さびしんぼう』の〈尾道三部作〉がヒットしたことが知られている。晩年の作品からは想像しにくいが、CMディレクター出身らしく娯楽映画や角川映画のアイドル映画をちゃんと撮れる監督であった。富田靖子など〈尾道三部作〉で主演した女優たちが、その後、息長く活躍していることを見ると演技指導というかコーチングスキルがあったのだろう。
〈尾道三部作〉は監督の代表作で評価の定まっている作品であろう。これ以外に見てみたい監督作品を3つ挙げてみたい。
HOUSE ハウス (1977年)
監督の劇場用長篇映画作。ファンタジックな低予算ホラー映画。ポップな書き割りと安い画面合成による特撮が不思議を映像表現を実現している。池上季実子や大場久美子というオレ的ビッグネームが出演していることも見逃せない。
野ゆき山ゆき海べゆき (1986年)
鉄骨娘として名を馳した鷲尾いさ子主演。まず彼女の裸体をフィルムに焼き付けた点が評価される。わんぱく戦争をホンモノの戦争に重ねるアイデアは秀逸。反戦映画だが説教臭さがなく、大林ワールド全開。映画を見た気分にさせてくれる秀作。

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野のなななのか (2014年)
晩年に近い作品で作家性が強く出ている。万人ウケする映画ではないだろう。これまた反戦映画。演劇的な会話劇。冒頭、早口のうえセリフが被る会話劇が続く。演劇的というのだろう。しかも会話が微妙に噛み合っていないというおそろしい導入部。
「なななのか」というタイトルから、既にわかりにくいが、劇中で謎解きされる。死者と生者が混在した芝居で会話が分断されているなど技巧的な映画である。見る側にもやや覚悟が要る映画だが大林宣彦らしい作品。
まとめ
作家性の強い映画監督だったこともあり、名画座で企画上映が組まれることが多かった。訃報を受けて、平時なら数週間後に追悼企画が上映されるのだろうが、いまは都内の映画館は休業している。この事態が終息して、映画館で監督の作品を見ることができる日常が戻ってくることを祈るばかりである。