退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『あん』(2015) / 樹木希林の最後の主演映画

DVDで映画『あん』(2015年、監督・脚本:河瀬直美)を鑑賞。原作はドリアン助川の同名小説、主演は樹木希林。原作は「人生につまずいてしまった男と、人生を完成させる女性との出会い」という謳い文句とともに、全国感想画中央コンクール指定図書となった。

あん DVD スタンダード・エディション

あん DVD スタンダード・エディション

  • 発売日: 2016/03/16
  • メディア: DVD

春。どら焼き屋「どら春」で、重い過去を持つ千太郎(永瀬正敏)は雇われ店長として働いていた。ある日、手の不自由な老女・徳江(樹木希林)が店に現れ、バイトに雇ってくれて懇願する。千太郎は相手にしなかったが、手渡された手作りにあんを食べた彼はその味に驚く。店の常連である中学生ワカナ(内田伽羅)のすすめもあり、千太郎は徳江を雇うことに決める。徳江のあんを使ったどら焼きのうまさはまたたく間に評判になり、大勢の客が店に詰めかけるようになる。しかし徳江について“ある噂“が広まると客足はぱったりと途絶えてしまう……。


映画『あん』予告編

ベタな映画であるが、しっかりしたよい映画。怪演とも言える樹木希林の演技に尽きる。神々しくも思えるが、映画全体のバランスとしてはこれでよかったのかなとも感じる。

つらい千太郎の過去も霞んでしまうほどの過去を徳江が背負って人生を完成させようとしていた、と言えばそうなのだろうが、千太郎と徳江の釣り合いがとれないところが引っかかる。決して永瀬の演技は悪くない。が、樹木が強力すぎるため、千太郎は誰が演じても同じだろう。

映画のなかで、あんの作り方を細かく描かれていたのはとてもよい。今季の朝ドラ「スカーレット」でも陶芸そのものについての細かい描写がもっとあればいいのに思ってしまった。

また映画を見てから知ったことだが、常連客のワカナを演じた内田伽羅は樹木の実の孫だろうだ。いい思い出になっただろう。常連客と言えば、モブではあるが店の常連客である女子中学生の二人組がいい味を出していて感心した。これから見る人はぜひ注目してほしい。

西武鉄道の黄色い車両が映るシーンが何度か出てくる。高架されていないので多摩のほうなのだろう。東村山市にある国立療養所多磨全生園を想起させる。近くにはハンセン病資料館という施設もある。一度訪れてみたいと思いながらずっとそのままになっている。この映画をきっかけに行ってみたい。

あん Blu-ray スペシャル・エディション