ふだんほとんど利用しないイオンシネマで映画『新聞記者』(2019年、監督:藤井道人)を観てきた。封切り時に見るつもりのない映画だったが、思いがけず空き時間ができたので鑑賞。館内は意外に混んでいてスマッシュヒットだという噂は本当のようだ。主演はシム・ウンギョンと松坂桃李。
この映画は東京新聞記者・望月衣塑子の同名の新書を原案に、若き女性新聞記者とエリート官僚の対峙と葛藤を、オリジナルストーリーで描き出す。原案となった新書は昨年春に読んでいた。この本は望月記者(イソコ)自身の生い立ちから記者としたのキャリアについて書いたものであるのに対し、映画は一応フィクションであり、本の内容とはまったく関係がない。
- 作者: 望月衣塑子
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2017/10/12
- メディア: 新書
- この商品を含むブログ (7件) を見る
映画が始まってまず不思議に思ったのは、主人公の女性記者を韓国人女優・シム・ウンギョンが演じていたこと。日本人女優には政治的すぎる映画ということで出演を断られたのだろうか。イソコを演じたりしたら、政権からどんな嫌がらせを受けるかわからんということだろうか。
彼女は日本語を特訓してがんばっているのだが、いかんせんセリフがたどたどしい。一応、日本人の父と韓国人の母のもとアメリカで育ち、教育もアメリカで受けているという設定があるが、これが日本語のセリフが拙いことのエクスキューズにしかなっていない。アメリカ育ちならば、アメリカで学んだジャーナリズムはこうだと主張したり、流暢な英語を取材に活かしたりするシーンがほしかった。
ストーリーはオリジナルではあるが、いわゆる安倍政権を揺るがせた「モリカケ問題」で知られているエピソードをアレンジして、それらを組み合わせてオリジナルの物語を構成している。虚実が入り混じっていて、独特の雰囲気を醸し出しているが、なんとも歯がゆいし、すっきりしない。映画のレビューを読んでも、現実とフィクションを混同したトンチンカンなものがかなり多い。安倍批判をしたい層にウケているのだろうか。映画で政治批判したいなら、もっと堂々とやればいいのにと思ってしまう。ビビったのか。
いちばん納得できないのは政治家が出てこないこと。内閣調査室室長が政治家と電話で話すシーンがあるだけだ。やはり官僚たちがいかに首相官邸に「忖度」して、意のままに動くようになったのかを描いてほしかった。
また詳しくは書かないが、終盤は「え、これで終わり?」「後編に続くのか?」と思ったほど、中途半端な終わり方なのも不満。含みのあるエンディングと言うには程遠い。これからクライマックスかと思いきや、いきなりぶつ切りされてしまて後味が悪い。個々のシーンには目を引くものもあるだけに惜しい。
シム・ウンギョンと松坂桃李の両主演の演技のレベルが高い。その分、脚本が残念というほかない。アメリカには事実に基づいたジャーナリズムを扱った映画が数多くあるが、その類の映画であれば、映画で扱うのは事件の一部であっても、ラストで事件の顛末はこうなったとテロップが出て観客が納得するものだが、本作はフィクションでありそうした演出もない。せめてちゃんと終わってくれよ。
現代の日本では、実際の事件に基づいたまっとうな社会派映画は無理だということを再認識した。昔の日本映画にはそうした映画が結構あったのだが残念なことだ。