退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【読書感想】ヤマザキマリ『たちどまって考える』(中公新書ラクレ、2020年)

以前読んだ、『国境のない生き方: 私をつくった本と旅』という本がとても良かったので、再びヤマザキマリの本を手に取る。

パンデミックのため動きを止めた世界。国境を自由に越えて世界中を駆けていた筆者も閉じこもりを余儀なくされる。そのなかで自分や社会と向き合うなかで考えたことが縷々述べられている。

この本は、大げさに言えば日本とイタリアとの比較文化論としても読めるかもしれない。おおむねイタリア上げの感は否めなず、日本人への苦言という体裁である。そのなかで最もしっくり来たのは政治家の資質である。

イタリアに限らず、今回のパンデミックに対するヨーロッパの政治リーダーの持つ「弁証力」が秀でていて、日本の政治家たちと比べるべくもなかった。メルケル首相が国民に語りかけたスピーチは日本でも話題になったことは記憶に新しい。

翻って日本の政治リーダーはどうだろう。原稿に目を落としながら、ただ棒読みするだけでまったく説得力がない。これが日欧の文化のちがいから生じていることはわからないが、政治リーダーの姿に大きなちがいがあったことは事実だ。筆者は、日本で欧米のようにスピーチする政治家がいれば国民はかえって警戒するかもしれない、といったことを述べていた。まあそうかもしれないが、グローバル化しているなかでもう少し日本のリーダーにもちゃんとしてほしいものである。

また筆者が閉じこもっている間に見た映画や、読んだ本が紹介されていたのも参考になった。映画については、比較的メジャーな作品が多いように思ったが、いまの時期だからこそ見直してみるのもよいかもしれない。読んだ本では安部公房の短編集が紹介されていたのが印象的だった。いまそれなのかと思った。

さらに松田聖子に言及して、当時のアイドルは単独で活動していたのに、現在ではグループで活動するのが普通になってしまったことについての考察も面白い。「一匹狼」より「グループ」の時代になったことに対する分析である。フカヨミしすぎだろうとも思うが、意外に当たっているのかもしれない。一読の価値あり。

このほかにもパンデミックを背景にさまざまな気付きを提供していて興味深い。ただし語りおろしのせいか、やや全体にまとまりのないのが気になるが、読んでいていくつか刺さったことを書き留めておいた。おすすめです。

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