新文芸坐の《追悼 内田裕也 スクリーン上のロックンロール》という追悼企画で、映画『水のないプール』(1982年、監督:若松孝二)を鑑賞。実際の事件にヒントを得た内田が若松監督に映画化を持ちかけたという内田の代表作。主人公のやってることはサイテーだが、生きることとは何かを考えさせる映画。R15+指定。
地下鉄の駅員の男(内田裕也)は、切符切りや掃除などのクソつまらない日常を淡々と過ごして鬱屈していた。ある日、レイプされそうになった若い女性(MIE)を助けて感謝されるが、退屈な日常は変わらない。気まぐれで家族サービスで出かけたピクニックで、ある光景を目撃したことで男の中で何かが変わった。それ以来、女をクロロホルムで眠らせたうえで、住居に侵入して犯すことにのめり込むが……。
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陰鬱な映画。とくに性犯罪を繰り返す後半は男の欲望をそのまま映像にしていて猛烈な勢いで進行していくが見る人を選ぶ映画だろう。女性向きではないし、カップルや家族で見るような映画でもない。そこに何かしらのテーマがあるのかもしれないが、深掘りしないで雰囲気を楽しで見るのがよいでろう。ユーモアが散りばめられているのがせめても救いか。
個人的には中村れい子がよかった。この映画のヒロインともいう存在。裸体も美しいうえに声も魅力的。喫茶店の店員で被害者のひとりだが、無意識に主人公の訪問を待つという役どころ。主人公との間に心のつながりが成立していることをほのめかす描写はちょっと面白い。
なおタイトルの「水のないプール」というのは暗喩ではなく実際に映像として登場する。内田が「これだけはやりたい」と言ったラストシーンの表情に注目。荒廃したプールに何かを重ねることはできるだろうが、きっと本人はカッコいいから撮りたかったのだろう。
切符を切るハサミのリズミカルな音や「ジンジャーエールはジュースじゃねぇ!」や「これは政治だ!」などという内田のセリフがやたらカッコいい。センスがいい。内田裕也映画の基本といえる一本。
上映後、近田春夫とモブ・ノリオのトークショーがあった。ふだんはトークショーはなるべく避けているが、近田さんが登壇するというので開館前に出かけてみた。大げさに言えば、近田春夫は私の人生に影響を与えた人のひとり。最近は近田さんと並んで私淑していた人が次々に他界しているので、今回、近田さんの軽妙なトークを聞けてよかった。
館内はほどほどの混雑具合だったが、入場時に館外まで伸びる長蛇の列には閉口した。インターネット時代なのだから、もう少しなんとかならないのかと思った次第。
余談だが、当日販売開始された『トップをねらえ!』のオールナイト上映の切符を求める人たちの列が別にできていた。アニヲタを蔑むような好奇の目にさらされてちょっとかわいそうだった。日高のり子と佐久間レイのトークショー付きのおっさんホイホイの企画。チケットは既に完売の模様。さすがです。