新文芸坐の《没後10年 森繁久彌と松林宗恵監督》という企画で映画『太平洋の翼』(1963年、監督:松林宗恵)を鑑賞。戦艦大和のミニチュアなど円谷英二の特撮が冴えている。
戦局が傾いた昭和19年、本土防衛のために新鋭機「紫電改」を投入して航空隊が新設される。指令(三船敏郎)は、各地から精鋭パイロット(加山雄三、夏木陽介、佐藤允)を招集する。飛行隊は初戦でこそ戦果を上げるが、軍指導部の戦力分散の愚策に加えて、米軍の圧倒的な物量の前に次第にジリ貧になっていく……。
この映画は紫電改が活躍するめずらしい映画だが、格納庫でひとしきり武装や旋回性能が優れていることをセリフで説明するだけで物足りない。空戦場面で紫電改の優秀性を示してほしかった。
それでも空戦場面の特撮は素晴らしく、さすが円谷英二と観客をうならせる。加えて戦艦大和のミニチュアも必見である。総じて特撮を楽しむための映画といえるだろうか。それに比べて本編はやや物足りない。
3人の隊長について、戦歴や家族構成など十分な人物描写はあまりされないのは不満。尺が短かったこともあるが、これだけの豪華なキャストを集めてもったいない。加山だけはなぜか抜群に垢抜けていて、部下の姉役の星由里子とのツーショットを申し訳程度に披露しているが、本筋とはほとんど関係ない。それでも隊員には渥美清や西村晃などの芸達者が顔を揃えていて人間ドラマもそれなりに楽しめるのはせめてもの救いか。
三船指令(源田実がモデルか)は「特攻なんて馬鹿げている」と正論を言うものの、ラストで加山隊長が「出ていけ!日本の空から出ていけ!」と叫びながら、敵爆撃機に特攻せざるえない状況が追い込まれた日本の状況を物語っている。日本から真珠湾攻撃で開戦したにしても、なんとも切ない。