退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

コミック「いつもポケットにショパン」を読んでみた

コミック「いつもポケットにショパン」(全5巻)を読了。2018年上半期放送の朝ドラ『半分、青い。』に登場した架空の少女漫画家・秋風羽織の作品として登場した作品。先日、秋風羽織の本を読んだついでに読み直してみた。漫画雑誌『別冊マーガレット』で1980年から1981年まで連載された、くらもちふさこの代表作。

クラシック音楽を題材にした少女漫画。ヒロイン須江麻子の成長譚。麻子と緒方季晋は同じピアノ教室に通う幼馴染。中学生になった季晋はドイツの留学先で列車事故に遭い音信不通となる。時は流れ高校生となった麻子は、季晋がすでに帰国していることを知り喜ぶが、季晋はどこか冷たい。これにはお互いの母親は恋敵だった過去が関わっていた。麻子は情緒不安定になり挫折しそうになるが、教師の勧めで音楽コンクールに出場することになる。練習を重ねていくなか、麻子は次第にピアノの才能を開花させていく……。

ヒロインの成長物語を軸に、幼馴染への恋心や出自の秘密などを絡めたストーリー。まあ少女漫画によくある話と言われればそのとおり。いい話で絵柄も好みだが、おっさんの心がときめくというワケでもない。懐かしさ補正で最後までたどり着いたというところか。

この作品は音楽を題材しているだけに演奏シーンに注目が集まりがちだが、実際は主人公の心理描写を中心に構成されている。思春期の少女のこころの様子がよく描けている (気がする)。結構シリアス路線で、いま流行りの萌えの要素はない。いまの若い人が読むとどのような感想を持つだろうか。

技巧的には、やはり演奏シーンについて触れなければならない。音のないコミックで演奏シーンを如何に表現するかついて苦心の跡が見られる。音符や効果音を入れずに、演奏者の表情や動き、観客の様子などをコマ割りを工夫して描く表現方法は、当時としては画期的だったのではないか。

後にクラシック音楽を題材にした漫画としては、二ノ宮知子の『のだめカンタービレ』や一色まことの『ピアノの森』などが登場するが、本作が与えた影響も少なくなかっただろう。この意味で本作の果たして役割は大きい。こうした音楽漫画をアニメ化するときにも別の難しさがあると思われるが、それはまた別の話である。

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