DVDで映画『白昼の死角』(1979年、監督:村川透)を鑑賞。原作は光クラブ事件をベースにした高木彬光の同名推理小説。角川映画のようだが、角川春樹がプロデュースした東映映画。主演は夏木勲(のち夏八木勲)。
戦争帰りの東大生を中心とした学生金融会社「太陽クラブ」が摘発され、首謀者の隅田(岸田森)は焼身自殺を遂げる。太陽クラブ残党の鶴岡(夏木勲)、九鬼(中尾彬)、木島(竜崎勝)は、隅田の死を見届けて社会への復讐を誓う。手形金融業・六甲商事を立ち上げた鶴岡は、法の目をかいくぐる経済犯罪に手を染めていく……。
冒頭の東京裁判の映像が示唆するように、「アプレ(戦後派)」がキーワードになっている。正直、平成も終わろうという時代に「アプレ」と言われてもピンとこない。この映画は鶴岡を主人公にしたピカレスクロマンだが、鶴岡は悪に徹しきずに中途半端な印象を受けた。もっとも詐欺を繰り返していくうちに、身内にも不幸になる者が次々に出るのだから仕方ない面もあるが、ピカレスクロマンというにはどこか物足りない。
物語はイマイチなのだが俳優たちの演技には見どころは多い。手形詐欺の被害者や共犯者たちに芸達者が揃っていてなかなか楽しめる。とくに面白かったのは、鶴岡が大衆芸能の俳優・市之丞(藤岡琢也)に雇って、ニセ社長に仕込むために芝居をつける場面。コミカルで笑えるシーンだが、シリアスな経済犯罪を描くことに徹していれば不要なシーンにも思える。エンターテイメントとしてはアリなのだが、映画としては迷走しているようにも思える。
また女優陣はちょっとさみしいが、鶴岡の情婦役の島田陽子が美しいのは特筆できる。濡れ場にも挑戦しているが露出度は物足りない。この時期に思い切って脱いでいればと惜しまれる。鶴岡の本妻(丘みつ子)と剣呑な雰囲気になって面白くなりそうだが、すぐに本妻が流産して自殺してしまい盛り上がらない。終盤、鶴岡を救うために九鬼と無理心中する場面はなかなかの迫力。汚れ役の島田陽子は貴重である。
尺が154分とやや長いのだが飽きずに最後まで見れた。見終わってからまず思ってのは、鶴岡は頭がいいのだがひとりで何でもやりすぎる、ということだ。もっと組織化を進めて分業していれば、これほど身内が不幸になるという結果を招くこともなかっただろう。鶴岡は組織論を学ぶべきだった。