新文芸坐で映画『空飛ぶタイヤ』(2018年、監督: 本木克英)を鑑賞する。池井戸潤の同名小説の初映画化作品。2009年に仲村トオル主演でWOWOWによりテレビドラマになっている。主演はTOKIOの長瀬智也。併映が『検察側の罪人』だったので、ジャニーズ尽くしの二本立てだった。
- 出版社/メーカー: 松竹
- 発売日: 2019/01/09
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タイヤ脱落による死傷事故を起こした運送会社の社長(長瀬智也)が、自社の無実を証明するために財閥系の大手自動車会社のリコール隠しの闇に挑む。池井戸潤原作らしい逆転劇は爽快感がある。
尺の制約もあるのだろうが、かなり単純化されてわかりやすい脚本になっている。その分、本来ならば零細運送会社と大手自動車会社に加えて銀行がもっと全面に出て、三者が並び立つような脚本であるべきだろうが、銀行の関与が少ない点はやや物足りない。逆にベタベタした人間関係が突出していないのはよかった。
キャストを見ていく。熱い二代目社長を演じた長瀬智也は意外に好演。尺のせいか人物像がイマイチわかりにくが情熱と迫力は伝わってきた。長瀬の妻を深田恭子が演じていることにも注目したい。「家庭のことはまかせて」という良妻賢母を演じているが、美人すぎることもあるがまったく似合わない。ミスキャストか。
自動車会社の課長を演じたディーン・フジオカの演技はどうもおかしい。いちいち気障だし、ポーズを決めないと死んでしまうのか。役者のせいなのか、演出のせいかのかわからないが、こんな課長はいない。
運送会社のメインバンクの担当者・高橋一生も気障たらしい。1本の映画に気障野郎は二人も要らない。まあ高橋については、銀行側を控えめに描いているせいもあり、出番が少ないので気の毒な気な面もある。長瀬智也、ディーン・フジオカ、高橋一生がバランスよく丁々発止の芝居でぶつかるドラマを見たかった。
それでも、零細企業 vs 財閥系大企業の対立がよく描かれてだけでなく、大企業がガバナンスを失って崩壊していく過程がそれなりに伝わってくるのは大したもの。ジャニーズファン向けに脚本を簡略にしたのが奏功したのかもしれない。これが新しい社会派エンターテイメントのカタチかもしれない。
本作は、一見荒唐無稽に思えるタイヤ脱落事故を扱ったフィクションだが、2002年に起こった三菱自動車製大型トラックの脱輪による死傷事故、三菱自動車によるリコール隠し事件などを下敷きにしている。当時、人命がかかっているのにリコール隠しとはひどいと思ったが、こうして映画になって様々な角度から事件を見ると、まったく同情できないものの、大企業の都合も少しわかるような気がする。