退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『武士道無残』(1960) / 武士道に翻弄される若者と兄夫婦

シネマヴェーラ渋谷の《日本ヌーヴェルヴァーグとは何だったのか》という企画で、映画『武士道無残』(1960年、脚本・監督: 森川英太朗)を鑑賞。武家社会の理不尽な掟に翻弄される下級武士の悲劇を描く。武家不条理モノ。白黒映画。

武士道無残 [VHS]

アバンタイトル砂丘を逃げる侍が追手に斬られる。若君が亡くなったあとの殉死者に選ばれた侍が逃亡して討たれたのだ。藩のメンツのため殉死者を出せねばならない。そもそも殉死とは自らの意思で切腹するものだが、藩の上層部は殉死者を指名して切腹を強いていた。要は誰でもいいのだ。家老(渡辺文雄)は、逃亡者の代わりに16歳の伊織(山下洵一郎)を殉死者に選ぶ。

青年を蕾のまま散らせては不憫と思った兄嫁・幸(高千穂ひづる)は自分の体を伊織に与える。覚悟を決めて切腹に臨んだ伊織だったが、すんでのところで幕府から「殉死は罷りならん」という通達が届く。伊織に切腹されたら困る家老は兄・信幸(森美樹)に弟を斬るように命じるが……。

伊織に母親同然に接してきた兄嫁が、このまま死なせては忍び難いと考えるのは分かるが、祝言の真似事までして自分の体を与えるのには驚いた。だれか別の女を用意すればよいのに思う。二人の関係が見えてこない。まあ一度だけならということかもしれないが、切腹が中止となりどの顔して伊織を迎えればいいのか困惑する姿が切ない。

ラストは幸が伊織を刺して心中を図ったところで、信幸に見つかり二人とも斬られてしまう。幸が最後に「寄らないでください」と夫を完全拒否して果てるところが印象的。夫婦の関係はどうなっていたのだろう。

救いようのないラスト。こうした封建時代を背景にした武家不条理モノは、『切腹』(1962年)など何本も撮られているが、本作は松竹ヌーヴェルヴァーグと時代劇が融合した珍しい作品である。

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