退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『四十七人の刺客』(1994) / 市川崑監督の忠臣蔵

新文芸坐の《高倉健 一周忌 健さんFOREVER あなたを忘れない》の最終日に映画『四十七人の刺客』(1994年、監督:市川崑)を鑑賞。原作は池宮彰一郎の同名時代小説。赤穂事件を赤穂浪士と吉良家側との謀略戦として描いた異色の「忠臣蔵」です。

大石内蔵助を演じる主演の高倉健は時代劇の印象は薄い。フィルモグラフィーを見ても時代劇への出演は目立ちません。調べてみると時代劇に出演したのは1968年以来とのこと。

この「忠臣蔵」がユニークなのは、浅野内匠頭橋爪淳)が吉良上野介西村晃)を斬りつけた本当の理由が明らかにならないこと。江戸城松の廊下での刃傷事(回想のみ)や畳替えの描写もありません。

主君への忠義というよりも、自らの権勢を示すために真相を明らかにしないまま浅野に切腹を命じ、赤穂藩を潰した幕府の面目をぶつすために吉良を討つ大石が描かれます。


四十七人の刺客(プレビュー)

大石とそれに対抗する米沢藩江戸家老・色部又四郎(中井貴一)の謀略戦を軸に展開し、従来の「忠臣蔵」にはないリアリティを表現しています。これに大石と一文字屋の娘・かる(宮沢りえ)との恋を絡めていく展開です。

たしかに新規性はありますが、映画として面白いかというとまた別の話。とくに吉良邸内の迷路や水濠などの仕掛けは、映画『十三人の刺客』(1963年)の劣化版に思えたし、かるとの恋のパートも不要に思えた。そもそも黒木瞳清水美砂が出ているのに、なぜ恋の相手が宮沢りえなのだろうか。高倉健宮沢りえは歳の差が気になり、犯罪的であるとすら感じてしまいます。

極めつけはラストで大石が吉良を討つ場面。弱々しい老人を無慈悲に殺害して血だらけになる大石が怖い。

最後に良かった点をふたつ。大石のライバルである色部を演じた中井の演技の演技は大俳優の片鱗を感じさせるもので見応えがあります。もうひとつは、ぽっちゃりしていた頃の宮沢りえ。高倉の相手としてはどうかと思いますが、単純にファンとして楽しめました。

オーソドックスな「忠臣蔵」とは一線を画する作品なので、ちょっと変わった「忠臣蔵」を見てみたい人にオススメします。好みは分かれるでしょう。

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