退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『サラリーマン忠臣蔵』(1960) / 森繁久彌が大石を演じる珍作

新文芸坐の《12月!おのおの方、討ち入りでござる! 大忠臣蔵映画祭》という「忠臣蔵特集」で、映画『サラリーマン忠臣蔵』(1960年、監督:杉江敏男)を鑑賞。忠臣蔵を企業内抗争に置き換えた珍作。笠原良三の脚本が冴えている。

サラリーマン忠臣蔵 正・続篇 [DVD]

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  • 発売日: 2005/02/25
  • メディア: DVD

アメリカからの経済使節団の接待をめぐり、赤穂産業の浅野社長(池部良)が丸菱銀行の吉良頭取(東野英治郎)を殴打する事件が起こる。謹慎を命じられた浅野社長はそのまま事故死を遂げ、吉良頭取が新社長として乗り込んでくる。浅野社長の無念を晴らそうと大石専務(森繁久彌)をはじめとする、赤穂浪士の名前にちなんだ社員が立ち上がる。

池部良のほか三船敏郎といった大物が出演しているのも見どころ。東宝オールスターが出演している、森繁久彌は専務だが豪華版「社長シリーズ」とも言える。

忠臣蔵のパロディが満載。松の廊下に見立てた東京會舘のロビーでの"松の廊下"のシーンが面白い。さすがに昭和の時代に切腹というわけにもいかず、浅野社長は不慮の事故として処理されている。また堀部安兵衛にあたるのがエレベーターガール(死語)というのもおかしい。忠臣蔵ネタをさがしながら見ると楽しめそうだ。

映画館では忠臣蔵のパロディにときおり笑いが漏れていたが、いまの若い人は忠臣蔵をロクに知らないから、このような企画はいまでは成立しないだろう。さらに終身雇用が瓦解してサラリーマンの企業への忠誠心も大きく変化している。古き良き時代の東宝サラリーマン喜劇の珍作と言えるだろう。

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本作は、大石たちが宴席で吉良に辞表を叩きつける場面で終わる。本懐を遂げるのは、続編『続サラリーマン忠臣蔵』(1961年)を待たなければならない。正続の二部構成。当然、正続を二本立てで上映するかと思いきや、今回上映されたのは正編だけ。「画竜点睛を欠く」とはこのことだ。

上映前に「続編は東宝にもフィルムセンターにもフィルムがないので上映できない」とアナウンスがあったが、「え、マジ?」という感じ。デジタル素材でもいいから上映してほしかったなぁ。残念。

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