書店で見かけた大映映画のスチール写真集を手に取ってみました。「スチール写真」とは、プログラムピクチャーの時代に宣伝素材として撮影された写真のこと。いまでも名画座のロビーで見る機会があります。
本書は、大映映画のスチール写真の膨大なストックから、音楽家の小西康陽氏が厳選した素材をもとにアートワークを経て仕上がった写真集です。20x15cmぐらいのコンパクトな本で横長(ランドスケープ)で横開きの装丁も洒落ています。スチール写真の魅力に気づいていた人は少なくないでしょうが、これまでありそうでなかった写真集かもしれません。
映画の解説はほとんどなく、スチール写真がずらりと並んでいます。「写真がすべてを語る」ということでしょうか。巻末のリストを参照すれば、スチール写真の作品名と俳優はわかるのすがシンプルで割り切った構成です。
見てすぐにどの映画かわかる写真もありますが、まったく知らない作品の写真もかなりありました。スチール写真が魅力的でも映画が面白いとは限らないでしょうが、どんな映画か見てみたくなります。
とくに興味深いのは、当時スチール写真を撮っていたカメラマン・西地正満氏のインタビューです。映画にクレジットされているので、もちろん撮影所には専属のスチール写真のカメラマンがいたのでしょうが、インタビュー記事は珍しい。本編の撮影が優先だとじゃけんにされた現場があった一方で、市川崑監督のように自由に撮らせてくれた監督もいるなど、当時の撮影現場の様子がうかがえるエピソードが読めたのはよかったです。
ただ惜しいなと思うには、実際のスチール写真は光沢のある印画紙に焼き付けれていて、ギラギラした素材感なのに、この写真ではそれが失われていて、のっぺりとした印刷になっていること。数点でもいいので、光沢紙で再現を試みてほしかった。
あとがきでは、この企画をシリーズ化して他の映画会社のスチール写真を出したいという野望を滲ませています。他社で、大映映画のようにちゃんと素材が残っているか不安ですが、ぜひ挑戦してほしいです。個人的には松竹で女優さん中心にまとめてほしいです。