新文芸坐のオールナイト《追悼・大杉漣 いつもそこにいた名バイプレイヤー》で映画『蜜のあわれ』(2016年、 石井岳龍監督)を鑑賞。室生犀星の幻想文学を映画化。主演は二階堂ふみ。
老作家の妄想を頑張って映像化したらこうなりましたという映画。金魚(二階堂ふみ)と作家(大杉漣)と幽霊(真木よう子)が織りなす耽美な恋の物語。自分のことを「あたい」と呼ぶ、金魚役の二階堂ふみを受け入れられるかどうかで評価が分かれる映画だろう。露出度は高め。
将来、二階堂が女優として大成すれば、この作品は「天真爛漫、無邪気でセクシーな少女を熱演」と振り返られるのだろうか。決して美人とはいえない二階堂が不思議な魅力を発しているのは確かで、単にブサカワと片づけられないオーラは感じられる。
また時代不詳のレトロな雰囲気のある金沢の街並みや屋内の調度品などの美術は、雰囲気がよくでて一見の価値がある。
今春、映画『狂い咲きサンダーロード』(1980年)を見たばかりだったが、最近の石井監督はこうした映画を撮っていたのかと驚いた。二階堂が突然踊り出すあたりは鈴木清順かと思った。
さて肝心の大杉漣は、室生犀星自身を投影したとも言われている老作家を演じて、自らの死を意識した老人の哀愁を体現している。老人を演じる大杉を見て、リアルで老境に入った大杉の演技をスクリーンで見たかった、と思った。本当に惜しい。