退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【読書感想】伊吹有喜『カンパニー』(新潮社、2017年)

久しぶりに小説を読みました。

プライベートでは妻子に逃げられ、仕事ではそつなく仕事をこなすものの物足りないと査定されリストラ対象になった製薬会社勤務の中年サラリーマン・青柳が主人公。

決して一流とはいえないバレエ団が、世界的プリンシパル・高柳を招聘して企業合併と社名変更を記念した冠公演「白鳥の湖」を行うことになる。この公演を成功させることが、青柳のミッションとなる。

バレエ関係者やトレーナーの人たちと交流しながら、数々の困難を乗り越えて公演を成功させるなかで、主人公が自分の居場所を見つけていく物語。

カンパニー

カンパニー

中年リストラ社員が再生するのはよくある設定だが、出向先が「バレエ団」というのがユニーク。クラシック・バレエを十分に取材したのだろう。読者の知らない世界を見せてくれているのは素晴らしい。バレエを細かく描写することでバレエダンサーの"スゴさ"を十分に描けているは美点。

まあ正直いうと、バレエについてそれほど知らないので関係者は小説でのバレエの描き方に異論があるかもしれないが、一読者としては面白く読めた。

また企業内のビジネス関連も自然に書けていて、おそらくビジネスパーソンも引っかからずに読めるのではないか。

公演に向って月ごとに章立てされているので疾走感を持って読めたのもよかった。終わりが決まっているのは強みだろう。ラスタは登場人物がカップリングされて恋愛模様を匂わせて終わる。恋愛要素は中途半端な気もするが、それでも華があるのでいいかもしれない。映像化しやすいしね……。

まるで映像が浮かぶような小説だったが、作品の肝というべきバレエのシーンを映像化するのは難しいそうだ。『ブラック・スワン』(2010年)のような映画もあるが、日本では難しいだろう。それでも、ぜひ映像化作品を観てみたい作品である。

そう言っているうちに、宝塚歌劇団月組でカンパニー -努力(レッスン)、情熱(パッション)、そして仲間たち(カンパニー)-』というタイトルで舞台化されると知った。東京では3月下旬から公演予定。もっとも主人公(珠城りょう)は青年サラリーマンに、妻とは死別したといったように宝塚向きに潤色されているようだ。舞台なら作品の世界観を表現できるのだろうか。気になるところである。


月組公演『カンパニー -努力(レッスン)、情熱(パッション)、そして仲間たち(カンパニー)-』『BADDY(バッディ)-悪党(ヤツ)は月からやって来る-』初日舞台映像

f:id:goldensnail:20180219005250j:plain:w420