東京国立近代美術館フィルムセンターの《特集・逝ける映画人を偲んで 2015-2016》で映画『帝都物語』(1988年、監督:実相寺昭雄)を鑑賞。荒俣宏の同名小説の映画化。
陰陽道、風水、奇門遁甲など東洋の神秘性をSF特撮に導入した記念碑的な作品である。渋沢栄一、幸田露伴、森鴎外、泉鏡花、寺田寅彦といった近代日本で活躍した実在の人物が豪華なキャストにより演じられているのも楽しい。
この映画は「雰囲気の映画」だろう。まず嶋田久作が加藤保憲役に抜擢されたことにより、雰囲気作りの半分は成功したといってよい。それほど強烈な印象を残す。出演者には、勝新太郎、平幹二朗など大物俳優が名を連ねている。とくに渋沢栄一役の勝新太郎はスクリーンに登場するだけで重厚な雰囲気になるのはさすが。豪華な映画である。
またクリーチャーを多用した特撮カットも必見。いまならCGでもっと写実的に撮るのだろうが、この時代ならではの技法を堪能できる。さらに関東大震災から復興した頃の銀座の街並みを再現した緻密なオープンセットも見事。市電を走らせたのは、鉄道ファンだった監督の思い入れだろうか。
ただしキャストや美術が申し分ないのだが、どうも話が見えてこない。時代が飛ぶのは仕方ないにせよ、人物の相関関係も分かりにくい。そもそも加藤保憲がなぜ平将門の怨霊を目覚めさせて、帝都東京を壊滅を企むのか。その動機がさっぱり分からいので、どうも乗れないのだ。
TEITO MONOGATARI (帝都物語) (1988): Original Theatrical Trailer
映画を見終わってみると、ストーリーをあれこれ細かく描くことに拘泥せずに、雰囲気重視の映像作りに専念したことが却ってよかったのかもしれない。いまみてもなかなか楽しめる映像作品に仕上がっている。実相寺昭雄が本領発揮した作品といえるだろう。
余談だが、映画のなかに東京の都市計画を論じているシーンがあった。いまの東京を見て渋沢栄一は何というのだろうか。そんなことを思いつつ映画館をあとにした。