退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『人生フルーツ』(2016) / 風と雑木林と建築家夫婦の物語

少しまえにポレポレ東中野で映画『人生フルーツ』 (2016年、監督:伏原健之)を見てきた。東海テレビによるドキュメンタリー映画。今年1月からのロングラン上映とのこと。

津端修一さん90歳、英子さん87歳の夫婦は名古屋市郊外のベッドタウンの片隅にある、雑木林に囲まれた平屋に住む。建築家の修一さんた建てた家。敷地内で穫れる四季折々の野菜や果物が食卓を飾る。いわゆるストーライフの生活である。

修一さんは東大卒業後、建築事務所を経て日本住宅公団のエースと活躍したエリート。専門は都市計画らしい。数々の団地の都市計画に携わるなか、自然との共生を目指す計画を提案するが、高度経済成長期の日本は経済が優先されそれを許さず、実際にできあがったのは無機質な大規模団地の街だった。

そこで修一さんは、自ら手がけたニュータウンに土地を求め、家を建て、雑木林を育てはじめることで、理想の生活を追求し始める。それから50年、雑木林は見事に育ち、長年連れ添った夫婦の終の棲家となる。


『人生フルーツ』劇場予告編

映画のなか日本住宅公団時代のの同僚が、修一さんは何日も出勤しなかったり組織人としては問題があったなど、思い出を語る場面が興味深かった。さらに「なぜスローライフに傾倒していったのかわからん」という趣旨のことも言っていたが、まさにそこがポイントだと思った。

雑木林のなかの家での生活はとても魅力的に描かれている。それだけに、どのような思考過程を経て、こうしたライフスタイルを目指すようになったのか思想的に深掘りしてほしかった。しかも田舎ではなく都市郊外のニュータウンというも面白い。

さらに個人的な興味を言えば、雑木林を育てるプロセスをもう少し詳しく紹介してほしかった。ただの造成地があれほど見事な雑木林にするためにはどうすればよいのだろう。50年の年月が必要だとしても、どこから始めればいいのだろうか。

高齢なのにお元気だったのは、やはりキッチンガーデンで毎日のように農作業をしているからだろうか。修一さんは、ある日作業から戻り昼寝をしている間に亡くなるのだが、ある意味理想的な最期に思えた。誰しも向き合わざるを得ない「老いと死」について考えさせられる深い映画でもある。

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