退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『ヒポクラテスたち』(1980) / 大森一樹監督の医大生体験を踏まえた青春群像映画

東京国立近代美術館フィルムセンターの《映画プロデューサー 佐々木史朗》をいう企画で、映画『ヒポクラテスたち』(1980年、監督:大森一樹)を鑑賞。日本アート・シアター・ギルド作品。

京都の医大の最終学年7人が、大学病院で臨床実習に取り組むなか成長していき、各自が進路を決めていく青春群像映画。京都府立医科大学出身の大森監督自身の医大生体験を踏まえた作品でもある。

まず主役の古尾谷雅人が長身でかっこいい。このルックスの医大生ならさぞモテるだろうと思っていると、大学図書館の美人職員とデキているという、男性にしてなんともうらやましい設定。

さらに、この臨床実習のチームには、他に柄本明伊藤蘭らが名を連ねる。とくに「普通の女の子に戻りたい」という名言と共に芸能界を引退したキャンディーズの元メンバー・伊藤蘭の復帰作としても知られている。

とくに医大生の寮生活が描かれているのも面白い。後にバイプレーヤーとして活躍する内藤剛志斉藤洋介阿藤海が寮生として出演しているのも見どころ。また手塚治虫鈴木清順カメオ出演しているのも見逃せない。

この映画の美点は、医大生ひとりひとりの視点から医学界が直面する問題を描いているところだろう。加えて学生運動の残滓など当時の世相もよく描けているように思う。また時代を超えて自分の大学時代と重ねることができ、いろいろな事を思い起こさせるとことが素晴らしい。

自分の記憶と照らしてみると、この映画の時代設定は公開当時より少し前のように思える。80年当時、国立大の学費はもうすこし高かったし、地域差があるかもしれないが学生運動も下火になっていた。私の学生時代より一昔前ぐらいだろうか。

私がこの映画を初めてみたのは、公開からしばらくしてからだった。そのころサブカルにすっかり洗脳されていた私はすでに東京への進学していたが、「京都での学生はプライスレス」じゃないかと思ったことを記憶している。

映画には鴨川と御所に挟まれた府立医大が撮影されている。すばらしい立地に憧れる。医大に受かる頭はなかったが、当時市内中心部に理工系学部のあった同志社立命館なら行けたかも……。現在、両校とも理工系学部は郊外に移転しているので、理工系は学生の京都での学生生活の夢は失われてしまったようだ。雲の上の京大を別にすると京都工芸繊維大ぐらいだろうか。いまでも、そんなことを夢想させてくれる映画である。