少し前に『「奨学金」地獄』 (小学館新書、2017年)という本を読んだので、引き続き本書を手に取ってみた。前書は弁護士が書いた本だったが、本書は奨学金を利用している学生に身近に接している私立大学の教員が奨学金問題について論じていて臨場感ある。
- 作者:大内裕和
- 発売日: 2017/02/13
- メディア: 新書
現在の日本学生支援機構が金融機関に成り下がったことから生じる「回収強化」などの問題は前書と同様な指摘が繰り返されている。そして問題をマクロに捉えて根本的原審を、終身雇用と年功序列型賃金を特徴とする日本型雇用が揺らいでいることだと看破している点が本書の肝であろう。このため親の所得が減少して子どもの学費を親が負担するという従来のシステムが機能しなくなっていることを指摘している。
これは納得できる分析だが、日本型雇用が崩壊しつつあるために顕在化している社会問題は「奨学金問題」だけではなく、日本のさまざまな分野に見られることである。つまり、さまざまな問題が互いに関連していて、「奨学金問題」だけが単独で存在しているわけではなく一側面にすぎない。やや大げさに言えば日本社会のあり方がそのものが問われてるということだろう。
もうひとつ興味深かったのは、肝心の奨学金の利用者である学生に当事者意識が乏しいという指摘である。高校卒業時の社会経験が少ない学生が親の言いなりになって奨学金(実際は学資ローン)を利用するのはある意味仕方ないのかもしれないが、借金を背負うのは自分自身だという認識がないのは不思議だ。これも教育の賜物なのだろうか。
また昔は学費値上げに反対する学生運動が激しく繰り広げられていたものだが、最近では高額な学費や不合理な奨学金制度に対して抗議する声は学生から聞かれない。日本の大学生はすっかり従順な羊に調教されたのだろうか。こうした学生のメンタリティの変化はどのように醸成されただろうか。
最近、安倍政権が給付型奨学金を創設するという明るいニュースが報じられている。これが単なるガス抜きなのか、学生にとって一条の光となるのか、詳細は未だ不明だが、優秀でやる気のある学生が少しでも救わればと思うばかりである。