退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【読書感想】湯之上隆『日本型モノづくりの敗北』

本書のサブタイトルには「零戦半導体・テレビ」とあるが、これらの分野を「日本の技術論」として一括りにするのは無理がある。編集者がキャッチーなタイトルを付けたかったのだろうか。本書は、筆者の半導体技術者としてのキャリアが活かした「半導体」に大きく紙面が割かれている。私も半導体業界にお世話になっていたこともあり、「日本の半導体産業の興亡史」としても面白く読めた。ダメ出しするだけでなく今後の方向性について提言しているところも好感がもてる。

日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ (文春新書 942)

日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ (文春新書 942)

とくに筆者が出向していたエルピーダメモリの内部事情は興味く読んだ。同じDRAM製造と言っても、NEC、日立、三菱の技術者はそれぞれに異なる企業文化を持ち、同じ言葉でもまったく違う意味になるという。各企業の個性を有効に組み合わせることができれば新たな展開もあったのだろうが、残念ながら経営破綻したのは周知の事実である。

次にルネサスの経営不振についての考察も説得力がある。「マイコン世界シェア1位なのになぜか赤字」という疑問が氷解した。ルネサスマイコンは、それなしではトヨタですら自動車を製造できないほどの主要部品である。その部品で大きなシェアを握っているにもかかわらずなぜ赤字なのかといえば、自動車メーカーが価格支配権を握っていてるだめであり、すべてが受け身の経営だったのが原因だという。Windows-Intelの高利益なプラットフォームを自ら築いたインテルとは好対照である。

さらに半導体製造装置の世界シェアから、日本企業は摺り合わせの技術に強いと分析結果を出しているのもなるほどと思った。かつて露光装置で世界を席巻したキヤノンニコンが今ではすっかり低迷しているのは残念だが、その理由を読むと納得できる。

最後になるが、願わくば日本で優れた技術経営者が輩出されない理由についても言及してほしかった。半導体産業の失敗例を見るにつけ、マーケティングを重視する優れた技術経営者がいたら今のようなテイタラクにはならなかったのに残念に思う。