退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【読書感想】小松左京『アメリカの壁』(文藝春秋、1978年)

日本SF界の巨匠・小松左京の短編集から表題作の「アメリカの壁」を読んでみました。1977年の「SFマガジン」誌に発表されたのが初出なので40年前のSF短編小説ですが、トランプ大統領就任により現在のアメリカを予言した作品として注目を集めています。

ベトナム戦争から10年後、「世界の警察官」に疲れたアメリカが舞台です。「輝かしいアメリカ」(bright America)というスローガンを掲げて当選した孤立主義のアメリカ大統領が登場。そして突然、謎の「壁」が出現し、アメリカは外の世界との交通・通信が一切途絶されてしまう、という設定です。

アメリカと言っても、アメリカ本土、カナダ、そしてメキシコの一部がその範囲です。これだけ広い国土や天然資源や人口があれば、他の地域から孤立しても十分にやっていけるという見立てが登場しますが、アメリカの今と重なることができるでしょうか。

もっとも、この作品に登場する「壁」は比喩ではなく、古代アメリカの遺跡調査から得た「超技術」による物理的な壁であり、大統領がこの壁を使って世界を分断するわけです。のちに映画化された小松左京原作の『首都消失』を思い出しました。

もちろんトランプ大統領がいま「壁」を使うことはできませんが、もし彼が「壁」を出現させることができればボタンを押すでしょうか。そんなことを考えながら読みました。短編なので分断された2つの人類のその後の歩みについては言及がありませんが、残りの世界はソ連が支配することになるのでしょうか。興味はつきません。

私は古い単行本で読みましたが、電子書籍も出ています。短編なのですぐに読み終えることができます。オススメです。

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