新文芸坐で『FAKE』(2016年、監督:森達也)を鑑賞。2014年に話題になった佐村河内守氏の「ゴーストライター問題」を題材にしたドキュメンタリー映画。聴覚障害を抱えながらゲーム音楽などを手掛け称賛されるも、ゴーストライターによる楽曲を自作として発表していた事件である。
当時ワイドショーでこの問題がさかんに取り上げられていると聞いて、なぜこれほどの騒ぎになるのか分からずに「どうでもいいだろう!」と思っていた。
しかし森達也監督がドキュメンタリー映画を撮るというので一度は見ておかなければならない。封切り時に見に行きたかったが、タイミングが合わずにようやく今回見ることができた。
この映画では佐村河内守氏の自宅でカメラを廻し素顔に迫っている。結構立派なマンションだ。森監督がどのように佐村河内氏との信頼関係を築いたのかも興味のあるところである。
出演申し込みに訪れるメディア関係者、事件の真偽に迫ろうとする海外ジャーナリストたちを自宅に迎え、佐村河内守氏が応対する様子を捉えた映像には臨場感がある。とくに海外のメディアが演奏している様子を見せてくれれば皆が納得する核心を突いたのは、そのとおりだと思った。しかし自宅にはキーボードすらないというから「あれあれ」と思った。
一方「週刊文春」で音楽家の佐村河内氏との関係を告白した新垣隆氏に取材を申し込むが断られたいた様子も登場する。双方を取材して真相に迫るという展開にならなかったのは残念だが、森監督のキャリアを考えると仕方ないのかもしれない。
この映画でいちばん印象に残ったのは佐村河内守氏の奥さんだった。献身的に氏を支えている様子が伝わってくる。こうしたパートナーがいるだけで、事件の真相は別にして佐村河内守氏の人柄が伺えるように思えた。
公開当時「誰にも言わないでください。衝撃のラスト12分間。」の宣伝文句を流していた。鑑賞後にああこういうことかと思ったが、ネタバレはやめろというのだからオチは書かない。「なるほど」と思った一方、これでいいのかとも思った。実際に映画を見て判断してほしい。