新装なった新文芸坐で映画『夜叉ヶ池』(1979年、監督:篠田正浩)を鑑賞。幻想文学で知られる泉鏡花の戯曲を篠田正浩監督が映画化。当時、歌舞伎界を一世風靡していた女形・坂東玉三郎が映画に初出演したことで話題になった。
長い間、権利関係の調整が難航しソフト化されずに「幻の映画」となっていたが、最近ようやく4Kデジタルリマスター版が完成し、昨年、ユーロスペースで劇場上映されたが見逃していた。新文芸坐が改装されて新しい映像設備が導入されたの出かけてみた。
越前の夜叉ヶ池には竜神がすむという言い伝えがあった。夜叉ヶ池の伝説の調査に来た学者の山沢(山﨑努)は、迷いこんだ池のほとりで美しい女性と出会う。百合(坂東玉三郎)というその女性は、夫と二人で鐘楼守をしているという。家に招かれた山沢は、かつての親友で、夜叉ヶ池の調査に出たまま帰らぬ萩原晃(加藤剛)が百合の夫であることを知り驚く。言い伝えによれば、一日に三度鐘を撞かなければ竜神が再び暴れて洪水を引き起こすという。そこで鐘つきの老人の死後、晃が鐘楼守をすることになったというが……。
そもそも夜叉ヶ池はどこだろうと思ったが、ちゃんと実在していて福井県と岐阜県の県境に位置している。
この映画の見どころのひとつは、村の女性と竜神の子孫である白雪姫の二役を演じた坂東玉三郎であろう。とくに白雪姫の場面では夜叉ヶ池に棲む妖怪たちとのセリフが舞台調になるのが面白い。白雪姫役の坂東玉三郎演技は必見。彼なしでは成立しなかった企画であろう。
またラストの大洪水のシーンも見どころである。矢島信男率いる特撮研究所を松竹に招いて大がかりな特撮が敢行されている。矢島らしい特撮を堪能できる。さらに洪水のあとの夜叉ヶ池が海外ロケの空撮になっていることにも驚かされる。イグアスの滝かしらん。ハッタリが過ぎる気もするが、ファンタジーなのでそれぐらいでちょうどいいのかもしれない。
2022年に『夜叉ヶ池』を劇場で見ることができるとは思わなかった。いい体験だった。