将棋棋士・村山聖(むらやま・さとし、1969-1998年)を題材にしたノンフィクション小説。大崎善生のデビュー作。
かなり前に一度読んだ本だが、松山ケンイチ主演で映画化されたと聞き再読した。予定では映画公開前に読み終えるつもりだったが、他の本に気が移ったこともありようやく読了。映画は既に封切りされて公開中である。
難病と闘いながら名人への夢を一途に貫いて生き抜いた鬼才・村山聖の29年間にわたる生涯を描く。筆者が当時、日本将棋連盟に努めていたこともあり、村山をはじめ関係者と近い人間関係があったからこそ書けたユニークな一冊。
とくに印象に残るのは森信雄との師弟関係。師弟の奇妙な同居生活や、独立してからのふたりの微妙な距離感が生々しく描写されているのは必読。献身的な師匠に出会わなければ、村山の大成もなかっただろう。まさに一期一会というべきだろう。
また村山が少女漫画好きであるばかりでなく読書家としても相当なものだったことも興味深い。書庫代わりにマンションを借りていたほどである。どの作家が好きだったのか若干の記述があるがもう少し詳しく知りたいなと思った。
意外だったのは、ボストンの『幻想飛行』(1976年、原題:Boston)を愛聴していたという記述。時代を考えるとリアルタイムではないだろうし、誰かの影響だったのだろうか。ちょっと気になるところだ。
この本は村上の壮絶な生涯を辿るだけでなく、彼の生きた時代感もよく伝わってくる。あの頃、自分は何をしていたのか懐かしく読むこともできるし、その後、何を成し遂げたのだろうかと自省とともに読むこともできる。