退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【読書感想】竹宮惠子『少年の名はジルベール』(小学館、2016年)

風と木の詩』や『地球へ…』などの作品で知られる少女マンガ家・竹宮惠子の半生記。

徳島から駆け出しのマンガ家として上京し、「大泉サロン」と呼ばれる東京都練馬区大泉のアパートで仲間たちと語り合った日々、そしてBL(ボーイズ・ラブ)の先駆けとなった問題作『風と木の詩』の連載に至るまでを経緯を赤裸々に綴る自伝エッセイ。

少年の名はジルベール

少年の名はジルベール

萩尾望都との共同生活を過ごした大泉サロンができたのは増山法恵の存在も含めて奇跡に近い。偶然なのか必然なのか、まさに事実は小説よりも奇なりといったところ。大泉サロンは、どんな間取りなのかと思いながら読んでいるとイラストが出てきたのでナイスと思った。互いの才能に刺激されながらも、萩尾の圧倒的な才気に嫉妬し圧迫される竹宮の姿がよく描かれている。

また女性4人で出かけたヨーロッパ旅行のくだりの活き活きした様子も印象に残った。本物を見ないと始まらないと、今とは比べものにならないほどハードルの高かった長期の海外旅行に女性だけで出かけるという行動力がすごい。

さて竹宮の代表作である『風と木の詩』だが、早い段階から構想はあったものの、当時の少女マンガ誌ではBLはタブー視されていて編集者に相手にされない。そうしたなか読者アンケートで1位をとれば連載されてやると言われてできた作品が『ファラオの墓』だっというエピソードだ面白い。

ファラオの墓 (1) (中公文庫―コミック版)

結局,この作品はアンケートで1位をとることはなかったが、マンガ家として着実に成長していく姿が素晴らしい。そのおかげかついに連載が認められて少女マンガの画期をつくることになる。が、『風と木の詩』の連載している頃のエピソードがないまま紙面が尽きるのは不満。もう1冊書いてくれそうな予感もあるので期待したい。

竹宮先生のファンならずとも、「24年組」のマンガで育った人たちはきっと面白く読めるだろう。オススメです。

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