退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【読書感想】小保方晴子『あの日』(講談社、2016年)

STAP騒動の渦中にあった小保方晴子氏の手記。この本を読んでも事件の真相は分からないし、疑問も解決されない。あくまでも筆者の視点からみた騒動の顛末が綴られている。

あの日

あの日

それでも最後まで一気に読ませる筆力は賞賛に値する。と言ってもライター文体がにじみ出ているので、おそらく本人へのインタビューを基にゴーストライターにより書かれたか、大幅にリライトされたシロモノだろう。

とくに良かったのおは、冒頭の四分の一ぐらいの騒動が起こる前の筆者の歩みを紹介するパートである。早稲田大学理工学部AO入試で入学してからの学生生活、大学院やアメリカでの研究生活など、学位を取り理研でのキャリアをスタートさせるまでが生き生きと書かれている。

一般に名を成した人の青春物語は読んでいて心地よい。しかしこの本の後半には悲惨な結末が待っていることがあらかじめ分かっているので複雑な気持ちで読んだ。

本を読む前から以下のことが気になっていた。

  • ネイチャー論文の画像のまちがいはなぜ起こったのか
  • 再現実験はなぜ成功しなかったのか
  • 早稲田大学による学位剥奪の経緯はどうだったのか

筆者からの視点でいろいろと書いてあるがどうも納得できなかった。ミスを認めて「痛恨」などと述べている部分もあるが、そういうレベルじゃないだろう。明らかに研究者としての適性に欠けると言われても仕方ない。もっと言えば、そうした研究者の力量を見抜けずに採用し、あまつさえ研究リーダーに抜擢した理研の人事はどうなっているのだろう。

それでも過度な競争と妬みが蔓延している生命科学界の体質、そして過剰なマスコミ取材の浅ましさは十分に感じ取れる。これは若い女性研究者が対応できるようなものではないだろう。組織のバックアップなしにはどうにもならない類のものだ。 バイオ分野は女性に人気があるようだが専攻を決める前にこの本を読んでみるとよいだろう。

こうした問題が日本特有なのか分からないが、筆者が帰国せずにアメリカの研究機関でキャリアを積んでいたらと思わずにはいられない。

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