少し前にたいへん話題になった本だが、ずっと積ん読状態になっていたので読んでみた。
人類の経済活動が地球を破壊して気候変動を引き起こす。これを放置すれば社会は野蛮状態に陥る。これを阻止するには際限なく利益追求する資本主義を何とかしなければいけない。人類は資本主義を捨てることはできるか。その解決策のヒントはマルクスの思想にあった。
読み物としては面白い。私はマルクスを読み込んできたわけではないが、これまでのマルクス像と筆者のいうマルクスはちょっと違う気がしながら読んでいた。この本では『資本論』におけるマルクスではなく、最近研究が進んでいるマルクスのメモなどをもとに晩期マルクスの思想をもとに論じている。
私などは「脱成長コミュニズム」などと言われると「成長しないとやばくね?」と身構えるが、「いまこそマルクスに立ち戻り、資本主義を打倒する」というコピーに惹かれる層もいることは想像できる。たしかに現代の資本主義の無慈悲な暴力にうんざりしている人は多いだろうから、そういう人たちには「資本主義を終わらせれば、豊かな社会がやってくる」という論は心地よく響くだろう。
そもそも気候危機がどのくらいの「危機」なのだろうか。まずそのあたりからじっくり検証する必要がある。どれほどの時間軸で考えばいいのだろう。本性では「気候ケインズ主義」などと批判されていたが、そうした対策で破滅的な状況を数世紀ほど先送りできれば、解決は後の世代にまかせてしまえばいいだろう。
SFでは環境問題でいったん人類の歴史がおわり、宇宙に新天地を求めるという設定はよくある。将来そうなっても、それでいいじゃないかとも思う。無責任すぎるだろうか。
この本のキーワードのひとつは〈コモン〉だろう。これを生産の領域に拡大していくことは、資本主義と対立することであり、ただちに実現することはできないだろう。しかし、ひとりひとりが〈コモン〉を意識して行動するだけでも社会は変わるような気がした。その点においては、かすかな希望を感じた。