国立西洋美術館で学芸員を務め、オルセー美術館の立ち上げに参加し、現在は三菱一号美術館館長という経歴を持つ、この道30年の高橋明也氏が語る美術館の裏側。
日本の美術館は、フランスなどの美術大国の美術館に比べて、バーターにするコレクションはないし、資金力や集客力などの点で遠く及ばない様子がよく分かる。愚痴のようにも聞こえたが、関係者が苦労している様子は伝わってくる。
こうした状況のなか日本の大規模な美術展は美術館と新聞社のタイアップで成立していることはよく知られているが、「裏側」というのならもっとぶっちゃけて欲しかった。新聞社が協力を惜しまないのもメリットがあるからで巨大な利権構造があることは想像に難くない。立場上、内情を暴露するのは難しいのだろうがやや物足りない。
国立の美術館が新聞社の食い物になっているということは、納税者の利益が損なわれていることに他ならない。併設されているショップの売上げや音声ガイドの利用料はどのように分配されているのか気になるところだ。また新聞社が招待券をバラまいているために展示会場が大混雑となっている現状をみると穏やかな気持ちではいられない。
それでも読んでいくと、なるほどと思わされることが多くありとても勉強になった。ひとつだけ挙げると、「日本美術はフラジャイル」だということ。常時展示されることが前提の西洋の美術品に比べ日本美術はとても痛みやすいということだ。現在、東京都美術館で開催中の『若冲展』の会期がわずか1か月しかないのか理由が分かった気がした。
またこの本は現状の美術館の「裏側」に留まらず、サブカルなどの新しい分野を含めた新しい方向性をも模索していることは注目に値する。
今後、中国や中東の経済力が伸長していくなか、相対的に国力が衰えるばかりの日本が海外からファーストクラスの美術品を集めることができるのもそう長くないかもしれない。いやもう少しは大丈夫だろうかなどと思いながら読んでみた。