退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『元禄忠臣蔵』 (1941, 1942) / 溝口健二の忠臣蔵

早稲田松竹で映画『元禄忠臣蔵』(監督:溝口健二)を鑑賞。前後篇の2部作。前篇は1941年、後篇は1942年に公開された。原作は真山青果作の一群の新歌舞伎の演目。この映画での役者の演技も歌舞伎調である。

専門家による歴史考証を経て実物大で再現された松の廊下はあまりにも有名。冒頭その松の廊下をクレーンを使って俯瞰するシーンは必見だ。他にも大石内蔵介ら17人の義士が切腹した細川家下屋敷も大掛かりに再現されているのも見逃せない。

戦時中の物資の乏しい時期にあれだけのセットが組めたのは驚きだが、戦意高揚のための国策映画として破格の予算が投入されたのだろう。しかしプロパガンダ映画なのに討ち入りが見事にスルーされているのは不思議。チャンバラ映画なんか撮れるかよという監督の挟持だったのか。それにしても討ち入りのない忠臣蔵を見せられた大衆は不満に思わなかったのか。

この『元禄忠臣蔵』は溝口健二監督のフィルモグラフィーのなかで中期の作品に位置付けられるが、タイトルの脇に「溝口健二作品」と大きく書かれていて、当時から巨匠だったことが伺える。

映画が作られてから70年以上経つと日本語も変容している。台詞の意味が分からないところがかなりある。そろそろ現代人向けに字幕が付ける必要があるのかもしれない。とは言っても、いまだに名画座で堂々と掛かるのだから、日本映画における歴史的な作品であることに間違いない。古典として一度は大きなスクリーンで見ておくべき作品だろう。

惜しむらくは画質が悪いことにに加えて音声のノイズがひどいこと。国費を投じて徹底的に修復してデジタルアーカイブとして残す価値はある。往年のハリウッド映画が次々とDCP化されているのとは大違いだ。

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