退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『陽のあたる坂道』(1958) / 石原裕次郎主演の長編文芸作品、女優陣が魅力的

新文芸坐の《秋、豊潤なる長編日本映画の味わい》という企画で映画『陽のあたる坂道』(1958年、監督:田坂具隆)を鑑賞。この企画に相応しい堂々3時間30分におよぶ文芸作品である。途中で休憩があった。白黒映画。好きな映画のひとつ。

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田代玉吉(千田是也)は出版社社長。家族は妻・みどり(轟夕起子)、医学生の長男・雄吉(小高雄二)、多少ひねくれているが自由奔放な次男・信次(石原裕次郎)、そして末娘・くみ子(芦川いづみ)の4人。家族で賛美歌を歌うようなこのブルジョア一家が舞台。女子大生の倉本たか子(北原三枝)がくみ子の家庭教師として採用されるところから物語が始まる。

一見裕福で幸せそうに見える田代一家も、次男・信次は玉吉が芸者に産ませた子だという複雑な事情を抱えていた。信次はたか子を媒介にして、実母のトミ子(山根寿子)と異父の弟・民夫(川地民夫)と対面することになる。

石原が自らの出自に悩むナイーブな青年を好演していて、日活アクションよりこうした映画のほうが彼に相応しく思える。冒頭、いきなり初対面の北原三枝の胸にタッチ! イケメンじゃなかったら只の変質者だろうが裕次郎なら問題なし。

そして注目すべきは女優陣だろう。北原三枝芦川いづみのWヒロインは可憐で魅力的で銀幕スターの趣きがある。また育ての親と実母である、轟夕起子と山根寿子の芝居も見応えがあった。

登場人物のキャラを立てながら複雑な人間関係を丁寧に紹介していく手際はさすがだが、いまのスピード感覚だと多少まどろっこしく感じるかもしれない。また戦前の家長制度に見られる古いイエとの対比において新しい家族像を表現している場面もあるが今となっては分かりにくい。

何しろ50年前以上前の映画なので、当時の時代背景などを勘案する必要があるだろう。それでも笑いどころではいまの観客にもウケていたので、それほど人間自身は変らないようだ。

ノイズが多い現代社会では、半世紀以上前の長尺の白黒映画を映画館で見るのもかなりの贅沢な娯楽になってきた。こうした企画でもないとなかなかその機会がないだろう。ゆったりとした心持ちで映画館で観たい作品である。

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