退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

「安保関連法成立」で思ったこと

9月19日未明、集団的自衛権の行使を可能にする安保関連法案は参院で可決され成立した。野党が問責や不信任案を連発して無意味な抵抗を続ける姿を国会中継で見てウンザリした人も多いだろう。

今回の安保関連法の是非についてはさまざまな考え方があるが、戦後70年にわたる安全保障政策が大きく転換されたことは疑いがない。今後なにか「事件」があれば、後世の歴史家は安全保障関連法の成立がターニングポイントだったことを思い起こすことになるだろう。

そこで安全保障関連法の成立で思ったことを思いつくままに書いておきたい。

安全保障関連法の合憲性

国会の法案審議において安保関連法案は違憲だという指摘が相次いだ。国会が招致した3人の憲法学者が与党が推薦した参考人を含めてそろって「憲法違反」だと発言する異例の事態になったことは記憶に新しい。

従来は内閣法制局が「法の番人」の機能を果たしてきたので、憲法違反の疑いのある法案が内閣から国会に上程されることはなかった。しかし安倍首相は法制局長官の任命権を使って、現行憲法下でも集団的自衛権の行使が可能だとする長官を新たに任命し、内閣法制局を抑えこみ、ついに解釈改憲を果たした。

内閣法制局は内閣の一部局だが、この「法の番人」に干渉することはこれまでタブーになっていたはずだ。時の内閣が人事権にモノを言わせ思い通りにすることは制度上想定外だったのだろうが、現政権に言わせれば「法律で禁止されていないもんね」ということなのだろう。この発想はある意味すごい。

最終的な違憲性は最高裁が判断することになるが、違憲判決が確定するまで法律は有効である。また日本では何か「事件」が怒らないと違憲訴訟を起こせないので、「事件」を未然に防ぐことはできない。

安全保障関連法の有効性

衆議院の審議では法案の違憲性を問うことに時間が割かれたため、より実務的な議論である法案の有効性についての議論されることは少なかった。つまり集団的自衛権の行使を可能になると日本の安全保障がいかに強化されるのかという論点だある。

とくに「存立危機事態」という謎のキーワードが目立った。これは、集団的自衛権を使う際の前提になる三つの条件(武力行使の新3要件)の一つとされ、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」と定義されている。

この「存続危機事態」はどのような事態を想定しているの不明で、結局、政府から具体例が示されることはなかった。時の政府がそのときの事態を「総合的に判断」して認定するらしいが、これではさっぱり有効性が分からない。

そもそも現代の安全保障上の脅威は国家間の衝突ではなく、主に国家とはいえないような集団からのテロ攻撃などだろうが、今回の安保関連法の議論で強調される抑止力が役に立つのか疑問である。

また今回の法律は「我が国と密接な関係にある他国」つまり米国に恩を売っておけば、有事の際に見捨てられることはよもやあるまいという目論見かもしれない。しかし米国が自国の国益を考えれば、日本の実質的な仮想敵国である中国とことを構えることはありえない。その意味でもこの法律の有効性は疑わしい。

遠のいた憲法改正

安倍政権は当初、憲法9条の改正を目指していたが、そのハードルが高いと見ると、現行憲法の下で集団的自衛権の行使を可能にするための解釈改憲へ方針転換した。

現時点では現実的な選択かもしれないが、解釈改憲で安保関連法を成立させたことで、憲法改正の道はずっと遠のいた。将来、なにか「事件」が起こって今回成立した安保関連法では不十分だとわかったときに初めて憲法改正の議論が再燃することになるだろう。

当初の方針のとおり、正面突破で憲法改正を目指し安全保障の議論を深めていくことに比べ、ずいぶん遠回りになったことは間違いない。

もっとも与党が両院で議席の三分の二を確保すれば今回のようにゴリ押しで改憲を目指すのかもしれない。しかし、その時は国民投票という新たなハードルが控えている。

意外に脆い民主主義

今回痛感したのは、日本の民主主義は意外の脆いということ。憲法違反の疑いのある、いい加減な法律があっさり成立したことに正直恐怖した。

内閣法制局が簡単に骨抜きにされたことには呆れたが、安倍首相ならやるかもと思ったのでそれほど驚かなかった。それよりも野党とメディアの不甲斐なさが目立った。あまりにも無力だった。

また今回、国会周辺デモが活発だったことは新しい動きである。あれほど反対の声が大きいにもかかわらず、政権与党は次回選挙を気にせずにゴリ押しで安保法案を成立させたのは驚きだったが、その自信はどこから出てくるのだろう。

野党にオルタナティブがないことを見切っているのか。野党が不甲斐ないのは選挙制度とも関係しているのだろうが、たいした自信である。もっとも経済政策や政権担当能力を考えると自民党以外の選択肢は選ぶのは難しいかもしれないが。

いずれにしても日本の民主主義が意外に脆いことが図らずも露呈した出来事だった。これに対抗するために市民がどう行動するべきなのか真剣に考える時期が来ているように思う。

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photo by Dick Thomas Johnson