4月29日、安倍晋三首相は上下両院合同会議において、日本の首相として初めて演説を行いました。内容はともかく英語を教材として使えそうなので少し見てみました。
準備
とりあえず素材集めですが、下の演説の動画を見てみます。ずいぶん長いですが米国議会の様子がわかって興味深いですね。もっとスラスラ話せば短く済んだはずですが……。
Japanese Prime Minister Shinzo Abe Address to ...
次に外務省のサイトから演説のスクリプトも入手しておきます。
はじめに
「つかみ」の部分です。どんなジョークを入れてくるかと思ったら、スピーチでは次のように言っていました。
I have lots of things to tell you. But I am here with no ability, nor the intention, ....to filibuster.
(申し上げたいことはたくさんあります。でも、「フィリバスター」をする意図、能力ともに、ありません。)
外務省の訳では「フェリバスター」となっていますが、fullbusterとは、米国議会で延々と無意味な演説するを議会戦術で、つまりは時間稼ぎです。聖書を延々と朗読することもあるとか。日本にも「牛歩戦術」という時間稼ぎがありましたが、あの類です。
観客の反応はイマイチ……。前途多難を思わせる冒頭部でした。
本論
ここでは内容というより気になった表現、使える表現を中心にいくつかピックアップしていきます。
痛切な反省
演説前から先の大戦について謝罪するのか否かが話題になっていましたが、以下のように、deep remorse という語を使っています。remorseは強い語ですが、いわゆる「謝罪」は表明しませんでした。
Post war, we started out on our path bearing in mind feelings of deep remorse over the war. Our actions brought suffering to the peoples in Asian countries. We must not avert our eyes from that. I will uphold the views expressed by the previous prime ministers in this regard.
まあ、アメリカに謝罪するのも変な話です。先に原爆投下や東京大空襲を謝罪してほしいです。
積極平和主義
安倍首相の造語なのかわかりませんが、首相がしきりに使いたがる言葉に「積極平和主義」があります。
日本語でも意味不明ですが、スピーチでは、proactive contribution to peace という語が使われています。色がついた pacifismという語を避けたのがポイントでしょうか。
That's why we now hold up high a new banner that is "proactive contribution to peace based on the principle of international cooperation." Let me repeat. "Proactive contribution to peace based on the principle of international cooperation" should lead Japan along its road for the future. Problems we face include terrorism, infectious diseases, natural disasters and climate change.
グアム基地整備事業に資金協力
とくに難しい表現ではありませんが、「グアム基地整備事業に、28億ドルまで資金協力を実施します」と言ってます。
Now, Japan will provide up to 2.8 billion dollars in assistance to help improve U.S. bases in Guam, which will gain strategic significance even more in the future.
will provide と言ってますが、これは約束したことになるのでしょうか。本来なら国内議論を経ないで対外的に約束できるはずありませんが、どうなんでしょうか。単に決意を表明しただけなのか、willの用法として気になります。
むずび
演説の結びはすごくカッコいいです。以下に引用します。
Ladies and gentlemen, the finest asset the U.S. has to give to the world was hope, is hope, will be, and must always be hope.Distinguished representatives of the citizens of the United States, let us call the U.S.-Japan alliance, an alliance of hope. Let the two of us, America and Japan, join our hands together and do our best to make the world a better, a much better, place to live.
Alliance of hope.... Together, we can make a difference.
Thank you so much.
「希望の同盟」とは歯の浮くようなセリフですが演説ではこのくらい強い言葉のほうがいいのでしょう。言葉のリズムもいいです。
だがしかし、肝心のスピーチは細切れでリズム感がありませんでした。スピーチライターさんもほぞを噛んだことでしょう。
まとめ
プロが書いているから当たり前ですが演説原稿は素晴らしい。使える表現もたくさんあるので参考になります。
しかし上下両院合同会議で日本の首相として初めて演説にするにしては、首相の準備不足は否めません。ぶっちゃけ観客がどのくらいスピーチをの理解していたのかもあやしいですね。もっと流暢にスピーチしていたら、もっと心に響いたでしょう。
そんなことを思っていたら、「8割の米議員わからず」という記事がありました。日刊ゲンダイですが……。それでも聞いていてイライラする英語だったのは確かです。
さすがに首相が相手国の首脳と英語で丁々発止やりあうことは期待しませんが、せめて事前に準備したスピーチ原稿をネイティブ相手それなりに伝えることができる程度の能力は必要でしょう。
国は「スーパーグローバル大学」のような謎の制度で国民を煽っているのに、首相がこのザマでは説得力ゼロですね。もう少しがんばってほしいものです。