退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【読書感想】矢貫隆『潜入ルポ 東京タクシー運転手』(2014年、文春新書)

以前、この本の著者である矢貫隆氏が『文藝春秋』(2009年2月号)に寄稿した「東京タクシー運転手残酷日誌」を読んで感想を書いた。かなり前の記事になのに最近アクセスが目立ったので、何事かと調べてみて本書を見つけた。こんなに年月が経ってから文庫として出版されるとは驚いたが、手にとってみた。

潜入ルポ 東京タクシー運転手 (文春新書)

潜入ルポ 東京タクシー運転手 (文春新書)

この本は筆者自らが東京でタクシー運転手になり、その体験談を交えながらタクシー業界の実態と問題点を明らかにしていくルポルタージュである。リーマン・ショック以降の不況下でのタクシー運転手の苦境、客の争奪に明け暮れるタクシーの乱暴運転、タクシー運転手誕生物語、サイアクな接客マナー、タクシー業界の将来展望といった内容だ。

まずタクシー運転手の生活が苦しいという点については、申し訳ないが労使間で解決してください、としか申し上げられない。そもそもリーマン・ショックの打撃により、どの業界も大変だったのだからタクシー運転手だけ安泰ということはありえないだろう。

それでも簡単に割り切れないのは、公共交通機関としてのタクシーは安全・安心を確保しなくていけないからだ。例えば、客の争奪戦でタクシーに無謀運転されたら周りがたまったものではない。これさえなければ、「勝手にしろ。しらんがな」ということになるだろう。とくにデフレ以降、タクシーを利用する機会がめっきり減ったからなおさらだ。

もうひとつ印象に残ったのはタクシー運転手のマナーの悪さだ。この本で紹介されているように順番待ちのときの路上喫煙やゴミのポイ捨てなどは日常茶飯事。他にもタクシー乗り場でないのにタクシーが長蛇の列をつくり車線を塞いでいるシーンにもよく遭遇する。

事程左様にタクシー運転手はマナーがなっていないのだが、自浄作用はまったく機能していない。ダメ人間だからタクシー運転手になるのか、タクシー運転手になったから素行が悪くなるのか分からないが、これではますます評判が悪くなり、「もっと勉強しないとタクシー運転手にしかなれないわよっ」とママゴンが説教するのも無理からぬことだ。この本では罰則強化で改善する可能性が述べられているが、なぜ業界がやらないか謎である。

やや余談だが、この本を読んでいる間はタクシー関連の情報に敏感になったせいか、2つ印象に残ったニュースがあった。ひとつは、配車サービスUberのついてののニュース。Uberスマホアプリでタクシーを呼ぶという単純なサービスだが、福岡で実施されていた実験に国交省が待ったをかけたとのこと。タクシー業界の既得権を守る圧力だろうか。

もうひとつは、自動車の自動運転技術の進歩で、将来運転手という職業がなくなるだろうという予測。SFのような話だが、自動運転技術の開発競争は加熱しており、意外に早い時期に実現するかもしれない。人命を預かるタクシーへの導入は後回しになるだろうが、いまの小学生が大人になるころには無人タクシーが街を走る時代がくるかもしれない。

このように数年後にはタクシー業界もガラッと様相が変わっている可能性もある。本当はタクシーより地下鉄を24時間運行してほしいが、それには複々線化が必要だ。しかし残念ならが東京にはその余力は残っていないだろう。残念。

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