新文芸坐の《アジアンムービー NOW 世界が見つめるアジア映画の息吹》という企画で、映画『めぐり逢わせのお弁当』(2013年、監督:リテーシュ・バトラ)を鑑賞。ムンバイを舞台にしたインド映画。
誤って配達された弁当をきっかけに、退職間近の孤独な初老の男(イルファーン・カーン)と、家庭を顧みない夫に不満を持つ主婦(ニムラト・カウル)が交流を深める姿を描く。二人がメッセージを書いたメモを弁当箱(ダッバー)に入れて互いの気持ちを伝えていく。終盤で駆け落ちしようとした二人はすれ違ってしまうが、余韻が感じられる穏やかなエンディングである。
実はストーリーそっちのけでダッバーワーラーが弁当を配達するシーンが気になった。
ダッバーワーラー(dabbawala)とは、ムンバイで家庭で調理した弁当を戸別に集め、オフィスワーカーの勤務先へ届ける弁当配達ビジネスに携わる人たちのこと。弁当を配達するだけでなく、空になった弁当箱が自宅までまた戻ってっくるのが面白い。英植民地時代以来、100年以上の歴史がある。
この弁当配達システムが普及した理由は、単に食事の嗜好の問題だけでなく、下位のカーストの調理した食事を食べることへの抵抗や、食事が宗教上の禁忌に触れないための配慮といったことがある。現代のインドの意外な一面を見たような気がした。
それなら弁当持って行けばいいのにと思うが、温かい食事がほしいのだろうか。日本のような保温できるランチジャーがあればいいだろうが、この映画に出てくるステンレス製の多段重ねの弁当箱「ダッパー」も機能的なデザインでカッコいい。
そしてダッバーワーラー特徴は、それが高度に組織化されたビジネスになってることで、ローテクなのに映画にあるような誤配送がほとんどないとのこと。この配達ビジネスは西欧からも注目されていて、ドキュメンタリー番組もつくられているらしい。ぜひ見てみたい。