退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【読書感想】青山繁晴『死ぬ理由、生きる理由 -英霊の渇く島に問う-』

ちょっと変わった本でした。2014年5月に実施された「にっぽん丸 小笠原・硫黄島クルーズ」の船上講演会を採録したものです。クルーズの模様と硫黄島の姿を紹介する32ページの口絵のカラー写真を本文から参照する形式です。

死ぬ理由、生きる理由 -英霊の渇く島に問う- (ワニプラス)

死ぬ理由、生きる理由 -英霊の渇く島に問う- (ワニプラス)

硫黄島(いおうとう)で大戦末期、日米間で大規模な戦闘があったことは、クリント・イーストウッド監督の映画などを通して知っている人は多いでしょう。しかし今も1万1千人以上の兵士の方々の遺骨が取り残されたままであることはあまり知られていません。

この本では、この取り残された遺骨の取り戻さなければならないと力説すると同時に、いまだに遺骨が放置されている現状を通して日本人の生き方を問いかけます。

実は、私自身はこの本を読む前から硫黄島に戦死者の遺骨が残されていることは知っていました。というのは、以前、英語を教わっていた先生が雑談で、娘さんが硫黄島遺骨収集事業に関与していて米国の公文書を調査していると話してくれたからです。そのとき硫黄島のことを調べたところ、概ねこの本で書かれていることがわかりませした。

最初、この事実を知ったときは驚きました。東日本大震災のときは被災者の捜索をあれほど念入りにやったのに、硫黄島の遺骨はずっと放置されているのです。硫黄島は、1968年に日本に返還されて以来、日本の領土(東京都)だというのにかかわらずです。米軍が設営した滑走路の下に遺骨が残されているのに、航空自衛隊の基地はそれをそのまま使っているのです。

ちなみに、このクルーズでは硫黄島に上陸しません。島を周回するだけです。立入禁止である加え、港がないからです。しかし本書には、著者の青山さんが2006年に特別の許可をとって硫黄島を訪れた体験談が採録されています。摺鉢山に登ったり地下壕に入った様子が紹介されています。多少オカルトのような描写もありますが心に迫るものがあります。

この本によれば遺骨収集事業には400から500億円の費用、そして10年の年月がかかるそうです。決して小さくない規模ですが、国家の意思としての戦争で犠牲になった方々の遺骨をそのままであっていいはずがありません。

もちろん、これだけの予算があれば他に使った方がいい、という意見もあるでしょう。いろいろな考えがあってもいいのですが、遺骨をどうするべきかという議論はきちんとするべきでしょう。

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